18 確信
そういえば———と、ふと思い出した。
本庄さんに抱かれているとき、何かを見たような気がする。
性的な満足とか気持ち良いとか、そういうのとは違う、嬉しさや暖かさみたいなものを発する光を……。
これって、子供の頃、入院している時に見た光と同じなんじゃね?
でも、子供の頃に見たものが、どうして今さら出てくるのよ。その真意が分からない。
自分の中に湧いた不思議な気持ちをもう一度確かめたくなって、本庄さんに抱きついた。
身体中を這う指と唇の感覚に心がとろける。突き上げられる快感に、腰が勝手に跳ねる。
そしたらまた見えてきた。暗闇の先にある柔らかい光が。
だけど、そこへ届く前にアタシは何度も果てて、そのまま気を失ったように眠ってしまった。
目覚めると、本庄さんはいなかった。テーブルの上にはこの部屋の鍵とメモがある。
「緊急の呼び出しがあったので、行かなくちゃならない。スペアキーを君に渡しておく。冷蔵庫の中のものは好きに使って良いよ。シャワーもどうぞ」
もう10時を過ぎていたので1講時目は完全に遅刻。開き直って今日はサボる事に決めた。
テレビをつけて、ぼんやりと朝のニュースを眺めながら冷蔵庫にあったペットボトルのコーヒーを飲む。
ニュースでは、謎の感染症がC国全土で確認された、と話していた。感染のスピードが異常に早く、暴徒となった市民が街に溢れているらしい。
「現地からの映像です」
画面が切り替わり、建物の屋上から撮影された映像が流れた。
催涙弾の煙がもうもうと立ち込める中、それに何のダメージも負っていない人々が歩き、軍隊へ襲いかかっている。彼らの動きは緩慢だけど、警棒で殴られても盾で押さえられても歯を剥き出して向かっていく。
この場面って、アタシが見た予知や、餓鬼に見せられたビジョンと似ている。
まさか、これって単なる暴動じゃなくて感染した人達なんじゃない?
ふと、餓鬼が語っていた事を思い出した。
『かの小さき病は、人なる飢えを幾倍にもする力を持てり。生者は死人めきて他の生者に食ひつき、大地は血にうつろひゆかん』
その時、分かった。このウイルスは人の中にある『飢え=欲』を表出させるものだ。
感染すると理性が吹っ飛んで凶暴になり、人を襲って噛む。噛まれた人もまた人を襲い始める。
それってリアルゾンビじゃん。




