17 情交
街灯に照らされた路上で、彼は泣いているアタシをずっと抱いていてくれた。
恥ずかしさと怖いのと嬉しい気持ちが入り混じって、自分が自分じゃないような感覚だった。このままずっと抱かれていたい。
「自分の部屋に帰りたくないです」
つい、そう言ってしまった。
「そうか。怖い思いをしたから無理もないな」
本庄さんは困ったように頭を掻き、そして照れ隠しにふざけた口調で言った。
「呪いや幽霊退治をしているお姫様でも、怖いなんて思うの?ははは」
アタシが睨みつけると、彼はバツが悪そうに口を曲げて「ごめん」と呟いた。
初めて本庄さんのワンルームマンションへ入った。
「君はベッドを使って良いよ。俺は床で寝る……」
と、言いかけた彼に、アタシは半ば強引にキスをした。本庄さんは目を丸くして驚いていたけど、アタシも自分の行動にびっくりした。
始めは戸惑っていた本庄さんだったけど、何度もくちづけを交わすうちに火が付いた様に力強くなり、そしてベッドへ押し倒された。
耳元で何度も愛を囁く本庄さんに、アタシはメロメロになった。
そのまま濃密で素敵な夜を過ごし、そして朝を迎えた。
「話したい事があって君の部屋に行ったら、あの状況に出くわしたんだ」
ベッドの中。二人でタオルケットにくるまって昨夜の余韻に浸っていると、本庄さんがそう言った。
「話したい事って?」
「就職についてさ。実はアオイ君を正式に宮内庁へ迎えたいという話があるんだ。今までの君の功績を見ると、顔パスでも良いくらいだけど、いちおう試験を受けてくれないだろうか」
そこまで言って、本庄さんは頭を抱えて唸った。
「そんな姫に、僕は手を出してしまった……せめて、君が卒業するまで我慢しようと決めていたのに」
「へえ。つまりアタシの事を最初から狙っていた、ということね?」
からかったように言うと、照れた本庄さんがシーツを頭から被った。
こんなアタシの力が必要?本当にいいの?
わりとデカい仕事をさせてもらっているけど、いつも何だかフワフワして地に足が着いていないっていうか、いつ死んでもいいなんて考えているのに。
生と死の狭間で漂っている気分なのに。