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12 清祓

 宮内庁郵便局内の地下倉庫に集められた荷物は、危険物の有無を調べたり選別されるので、直接、偉い人達の手に渡る事はない。

 この封書を送った犯人は、それを分かっているはず。

 にも関わらず送り付けてきたという事は、関係者なら誰でもいいから不幸になるようにと、開封した者を無差別に攻撃するような強い呪いを、ギチギチに込めたのだ。


「これが封書の中に入っていたものです」

 職員の1人がスマホで撮った写真をアタシと本庄さんに見せた。

 そこには奇妙な字が羅列してあるお札と、赤茶けた髪の毛の束と皮膚の付着した爪がある。

 見ただけで瞬間的に分かった。

 血で書かれた字、そして髪の毛と爪は赤ちゃんのもの。

 それらを餌にして餓鬼を呼び寄せ、周囲を攻撃しようという悪魔の技。何も知らない無垢な命を依代にした呪術だ。爪を剥がされて痛がる赤ちゃんの鳴き声を、餓鬼がギャアギャアと真似ているのだ。


 アタシは唇を噛んだ。

 何も分からない赤ん坊を痛めつけるなんて鬼畜の所業。でも、そこにこの呪術の強さと恐ろしさがある。

 許せない。

 術者が何を思ってこの呪術式を行ったのかわからないけど、今後のためにも制裁は必要だ。

 呪い返しの怖さを知らしめてやろう。

 

 呪塊が伸びあがり、まるでムカデのように塒を巻きながら襲って来た。

 ぶつかる直前、アタシはその頭を両手で受け止めた。掴まれた餓鬼は振り払おうと必死に手をばたつかせ、再びギャアギャアと喚いた。

「うるさい。いま消滅させるから黙っていなさい」

 餓鬼がアタシの手に噛み付いた。

「やめろ姫!呪いに触るな。ワシのように傷を負うぞ!」

 背後から安田さんの叫びが聞こえる。

 両手が腫れ上がって紫色に染まり、毛穴から血が滲み出て来た。だけど、今はそんな事に構っちゃいられない。

 呪い返しをするために念を送り込んだ。


 手紙に残された残存思念を辿って送り主の元を探る。

 霊視ドローンが空を飛び、遠く離れたどこかの山里へ向かった。古いビルに辿り着き、その中に潜む怪しげな新興宗教団体へと潜入した。

 床には奇妙な魔法陣。その中央には髪の毛と爪を乗せた呪札。

 それを取り囲んだ白装束の男達が、奇妙な祈祷をしている。

 なるほど、ここね。

 リーダーは……ああ。こいつか。一人だけ作務衣を身につけ、偉そうに腕組みしながら祈祷の様子を見ている男がいる。

 そいつに向かって呪いを逆流させた。

 男の身体の中にたくさんの念が送り込まれる。

 途端、彼の全身が徐々に膨れ上がっていき、両目から血が吹き出していく。苦痛の叫び声の中、祈祷は中断され、周囲の者達は騒然となった。

 

 アタシの目の前では、力を失った呪塊ムカデが床へ落ち、のたうちまわっている。

 両腕が腫れて痛む。アタシは思わず蹲ってしまった。

「アオイ君!」

 駆け寄ってきた本庄さんが、アタシの腕を見て顔色を変えた。

「すぐ病院へ行こう」

「ううん。大丈夫」

 アタシは安田さんにやったように自分自身へ心霊治療を施してみた。

 細胞の一つ一つに絡んだ呪いを浄化させていく。流れてしまった血はどうしようもないけど、腫れはすぐに引いた。

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