11 治療
アタシは丹田呼吸を繰り返しながら傷を診た。
筋肉と神経の中に呪いが入り込んで悪さしている。このまま病院へ行っても止血はできるかもしれないけど、根本的な治療にはならない。
安田さんが真顔で妙な事を言った。
「治せないか?」
「アタシが?治す?」
「そう。心霊治療さ」
「無理だってば。やった事ないし」
この爺さんったら急に何を言い出すのかしら、とめっちゃ焦る。でもアタシを囲んでいるおっさん達がどうか頼むと懇願し始めた。
「姫くらいの能力があるなら、出来るかもしれない」
「頼むよ、姫」
「あんたしかいない」
本庄さんも真剣な顔して、アタシの手を握りながら言った。
「僕からも頼む。やってみてくれ」
やばっ。
至近距離で見る顔がカッコいい。それにさり気なくアタシの手を握ってくるなんて、胸キュンが止まらないんですけど。
目の前で痛そうにしている安田さんを放っておくわけにもいかないし、とりあえず、やれるだけの事はやっておこう。
本庄さんや、他の人達が見守る中、また安田さんの腕を診た。
筋肉と神経に取り憑いた呪いを一個ずつ潰していくのは時間がかかりすぎる。
どうしようと思っている時に、幸子おばさんの事を思い出した。
子供の頃、風邪で寝込んでいる時におでこの所でやってくれた、あれ。熱が引いて楽になったなあ。
アタシは丹田と眉間へ同時に意識を集中しながら瞑想した。
そして、吐息に浄化のイメージを乗せ、右手でグーを握って吹き矢のように患部に向かってフッと息を吹きかけた。
「おっ。痛みが消えた。動くようになったぞ」
安田さんが興奮気味に言う。
右手に気を集中させ、もう一度吹きかける。
グーパーを繰り返した安田さんが、
「これだけ動くようになれば、箸が持てる」
と、喜んだ。
意外とすんなり出来ちゃった事に、アタシ自身もびっくりした。
右手を見ると、湧き上がる霊気が帯電したようにビリビリと光っている。
おおっ。霊気が肉眼で見えるなんて普通はありえないぞ。こんなに調子が良いのは久々だわ。「さすがミュータント」なんて言うおばさんの声が聞こえそうだ。
背後から本庄さんや他のスタッフの感嘆や称賛の声が聞こえ、アタシはちょっぴり嬉しくなって「イエーイ」とピースサインで応えた。
「ありがとよ。やっぱりアンタは姫だ」
「すごい!君は最高だ」
安田さんと本庄さんがアタシの頭をワシワシと撫でた。
なんだかすごく満足して、このまま良い気分の状態で帰りたくなったけど、メインの仕事が残っている事を思い出した。
この、ぎゃあぎゃあうるさい餓鬼をなんとかしなくちゃ。