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ねこ店長の喫茶店【改稿版】  作者: 佐倉涼@5作書籍3作コミカライズ


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潜入・ザ・学園祭③

 大吉と高木の動きは静かだった。不審な動きをしている男の背後に忍び寄ると、高木が肩を叩きながら、軽ーい声をかけた。

「なあなあ、そこのお兄サン。ちょっと俺らとお話ししねえ?」

「…………な、なんだ君達は」

 大吉はもう片方の肩を叩き、抑揚のない声で言う。

「ずっと探してたんやで、ストーカーさん」

「…………!」

 男は大吉の一言で危機を察知したのか、すかさず逃げ出そうとする。が、大吉と高木の動きの方が圧倒的に速かった。

 男の両脇を抱え込むと、男を宙ぶらりん状態にしながらだーっと走って行く。

「おっ、おい! なんだ君達は、放せっ! 放すんだ!!」

 しかし男の悲鳴は、スーツのイケオジ軍団が治部良川を称える声と、ねこの須崎の出現で女子生徒たちが上げる黄色い声によってあえなくかき消えた。

「高木、あの非常口から外に出んで」

「了解っす!」

「やめろ!!」

 大吉と高木はストーカー男をガッチリ抱え上げたまま凄まじい速度で校舎内を横切ると、非常口から外に出てそのまま人気の少ない校舎裏に回った。男を地面の上に投げ出す。

「うぅ……何をするんだ! 警察を呼ぶぞ!!」

 大の字に寝転んだ男に、高木はチンピラ時代に鍛え上げた人を煽るのに全振りしたような表情を浮かべる。

「おぉ、呼べばいいんじゃねーか? そしたらこっちの手間も省けるぜ、なあ? ストーカーさんよぉ!」

「ストーカー? 何の話だ!?」

「オッサン、江藤サンの後つけて、落とした招待状で学園に入り込んだやろ。さっきから盗撮してんのも気付いてんで。そのスマホ警察に見せたら、一発で全部がわかるやろうなぁ」

「…………!」

 男の顔色がさっと変わる。

 懐に腕を突っ込むと、ナイフを一本抜き出した。そして大吉と高木に向かって、がむしゃらな突進を仕掛けてくる。

「うわああああ!」

「高木!」

「はい!」

 大吉の声かけに合わせ、二人は左右に割れた。男は見た目がヒョロヒョロしていて弱そうだと判断したらしく、大吉から仕留めようと、ナイフを振り上げる。

 しかし大吉は、そんな攻撃に怯むような大学生ではない。

 常時ズボンのポケットに忍ばせているタバコの箱を、面倒なので一気に破り捨て、一掴みにつかんだタバコ全部に火をつけた。

 一ダースのタバコ全てが点火され、もくもくと煙を上げる。

 大吉は冷静にナイフの軌道を読むと、紙一重のところでかわし、男の顔面に点火したタバコを押し当てた。

「ぎゃああああ、熱い!!」

 まさかの大吉の乱暴すぎる反撃に怯み、ナイフを取り落とす男。しかしこれで終わりではない。高木が跳躍し、膝が男の横顔にめり込んだ。無防備だった男はチンピラ仕込みの飛び蹴りをまともにくらい、横に吹っ飛ぶ。

 たった二撃でノックアウトされた男を見下ろしつつ、大吉は点火したタバコの一本を抜き取ると、ふぅと本日初のタバコをゆっくりと味わった。

 途端、ビィイィイィ!! とけたたましい音が鳴り響く。

「兄貴、また煙探知機鳴ってるっすよ」

「あぁ……」

 大吉は実に面倒そうに眉根を寄せると、握りしめた一ダースのタバコの束を名残惜しそうに見つめた後、そこらへんの石に擦り付けて火を消した。


 大吉と高木、そしてノックアウトされた男は日本橋にある警察署まで連行された。

 男のスマホからはおびただしい数の盗撮写真が出てきた。大吉と高木は呆れた。

 男は江藤のみをストーキングしていたわけではなく、聖フェリシア女学院の生徒を片っ端から盗撮していたようだった。高木が以前行っていた通り、「写真が高く売れるから」というのが犯行理由だった。

 珪華の恋人の草太が以前電車の中で痴漢を捕まえたが、この男と同一人物であるということだった。つまりは前科持ちで、常習犯だったということである。

 警官の一人が、署から出る大吉と高木に礼を言った。

「犯人逮捕のご協力、どうもありがとう。だが、校舎内での喫煙は御法度だよ」

 大吉はやはりやる気なさそうに、「んああ」と言ってこくりと頷いた。

「よかったっすねぇ、兄貴」

「ああ」

「んじゃ、これで、愛チャンの喫茶店に心置きなく顔出せますね!」

「せやな」

 警察署を出た二人は、再び聖フェリシア女学院へと戻る。

 守衛室の一角に竹下の姿を見つけた二人は、声をかけた。

「竹下さん、そんなとこで何やってんすか?」

「あぁっ、大吉くんに高木くん!」

 守衛室のパイプ椅子にちんまり居心地悪そうに腰掛けていた竹下が、ペシャンコのボストンバッグを抱えていそいそと駆け寄ってきた。

「さっきすごい警報音がしたから、気になっていたんですよ。二人とも、怪我は? 男はどうなったんですか?」

「無傷や。ストーカーは無事に捕まえて警察署に連行された」

「よかった……」

「竹下さんはあんなとこで何してたん?」

「それが、注意を逸らすための策として、生徒たちの群れに須崎さんを放ったところしこたま怒られてしまいまして。まあ、学園内に動物を連れ込んだら怒られるに決まってますよね。あは、あはは」

 虚な目をして笑う竹下に、大吉と高木は若干の申し訳なさを感じた。

「おう、竹下に大吉に高木。無事に終わったか」

「治部良川さん。はい、犯人は無事確保されたそうです」

「そいつぁ良かった。そんじゃあ改めて、江藤の喫茶店に向かうか」

「その前に須崎さんを回収しないと……」

「須崎さん、どこ行ったんや?」

「さあ。散々撫でくりまわされた挙句に、気がついたら窓の外にひらりと逃げ出してしまいまして。猫ですし、どこか人目につかないようなところに潜んでいるんじゃないでしょうか」

「じゃ、一回校舎から出て須崎サン探そうや」

 大吉の声かけで、四人は再び非常口から外に出る。

 するとすぐに植え込みの中からガサガサと音がして、毛並みが乱れた縞猫の須崎が姿を現した。

「やあ、みなさんお揃いで。終わったということでしょうか?」

「ああ。須崎さんありがとう。手間かけさせてすまん」

 大吉はしゃがみこんで、乱れた須崎の毛並みを整え、背中にくっついた葉っぱを取り除く。

「いえいえ。猫のふりならば、朝飯前です」

 そりゃ、猫だからな……というツッコミは全員が胸の中にしまった。

 竹下が広げたボストンバッグの中に再び収まった須崎。チャックを閉めると、四人と一匹は未だ学園祭真っ只中の校舎の中へと入った。

 


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