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花のある生活  作者: 速水貴帆
花のある生活 番外編
11/12

少女とチューリップ

 四月中旬、この季節の桜は葉桜にと姿を変えている。《フラワー藤木》にも爽やかな風が吹き抜け、店先の花々を揺らしている。

 日当たりもよく、気持ちいいから思わず伸びをする。すると、後ろからくすくすと笑う声が聞こえた。隣のパン屋の奥さんだった。

「何ですかー?」

「だって花緒里ちゃん、そういう仕草亡くなったお父さん、そっくりなんだもの」

「そうなんですか?」

 父は私が小学五年の時に亡くなっている。そんな思い出話が出来るのも奥さんがいるからだ。明るく笑って話せるものになっている。

 そんな中、一人の少女が一輪ざしのチューリップを持ったままこちらの方を窺っていた。

 何だろう? と不思議に思った私は、とりあえず声をかけてみることに決めた。ショートカットの十歳くらいの少女だ。

 黄色のチューリップは萎れかかって、花が下を向いている。

「どうしたの?」

 なるべく優しく声をかける。少女ははっとした様子で、思い切ったように顔を上にあげた。意志の強い眼をしていると感じた。

「あのね、このチューリップ、こんな風になっちゃったの。元にもどる?」

「お水はあげてる?」

「あげてるよ!」

 よっぽど悔しいらしく目元を潤ませる。

 それにしてもこの商店街で見ない子だ。わざわざ花屋を探してきたのだろうか。

「光には当ててる?」

 もう一度問う。

「あ……」

 少女が俯いた。細いショートの髪がさらっとなびく。

「お母さんが寝てるからカーテン閉めてる……」

「そう……」

 そんな中、萎れた花を元にもどしたいと花屋に来た少女の心中は、どんなものだろう。

「じゃあ、カーテンを開けられる所に置いて光に当ててあげて」

 そして、少女から花を受け取り水の中で斜めに茎を切る。少しでも水の吸い取りが良くなるように。

「きっと大丈夫よ」

 言うと少女は、ぱあっと笑顔になった。

「ありがとう! お姉ちゃん」

「どういたしまして」

 にこっと笑いかける。

 そこへ、隣のパン屋の奥さんが少女の方へ行き、 

「今あがったあんドーナツ、少しだけど持ってお行き」

 と、少女の手に握らせた。少女はペこっと頭を下げた。

 お客でなくてもいい。店に来て、花を愛してくれれば。

 そう思う私は甘いのかも知れないけど、この街はそういう人情派の人間が集まっている。

 そして思い知らされる。

 私がどれだけ花が好きかってことを。

 父が遺してくれたこの花屋を、私と母でずっと繋いでいこう。

 人と人とが心で繋がっているように、心と店で繋ぐことだってきっと出来るはず。

 そう思って見上げた青空は、どこまでも澄んでいた。                


 【終】


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