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第六話 ノーサイド

「……」

 ん……?

「……きろ」

 なんだ……?

「少年……起きろ少年」

 誰かが……俺を呼んでる?

 んだよもう……

 もう少し寝かせてくれよ……

「少年、おい少年! 起きろっつてんだろ! クソガキ!」

「うっさいわ! もうちょい寝かせろ! つか誰だよ! ……ん?」

 目覚めてから一番に目に入ったもの。

 それはさっき助けたクラスメイト達ではなく、調査から帰ってきたレイジや委員長でもなく、先ほど倒したはずの青毛の狼とその後ろに控える取り巻きの黒五人……いや五匹組。

「……?」

「なぜ黙っているのだ? 少年? おい、どうした? そんなに固まって」

「……た。喋った!? 狼が喋った!?」

 聞き間違いじゃないよな? 聞き間違えてないな!?

 確かに今喋った。

 俺たちの世界では絶対に喋ることのない狼が喋って、しかも会話をしていた。

「当たり前だろう? 我は普通にしゃべれるぞ?」

「あんたらの中で当たり前でもその当たり前を俺は知らないんだよ……」

 まるで至極当然化のように衝撃の事実が奴の口から語られたが、当人は「なぜそんなことも知らないんだ?」というような表情でこちらを見つめていた。

 いやそれよりもだ。

「お前ッ、まだやる気か?」

「我はあの時少年に敗北している。お主の剣がちゃんとした鉄製の剣であれば、今頃我は致命傷を負っていただろう。だからこそ、我らの処分はお主が決めるがよい」

 先ほどまでの繊維むき出しの様子とは異なり、さっきまで敵であったはずの俺を目の前にしても警戒などは全くせずに、それどころか落ち着いた様子でその場に座り込みどこか遠くを眺めていた。

「なんとも潔いんだな……」

「それが我ら魔獣族だ」

 魔獣……

 やっぱり普通の獣ではないのか。

「まぁとりあえず……どうして俺たちを襲ったんだ?」

「襲うも何も、ここは我らの縄張りである。我が家に勝手に住み着いた不法侵入者どもを追い払おうとしたのだが……」

「何? ここはお前らの縄張りだったのか!? だとしたら完全に俺たちの方が悪者じゃないか……」

「別に構わんよ。この世は弱肉強食。だからこそ我はお主らから力ずくでこの場所を取り返そうとし、我はそれに負けた。つまり我に勝ったお主はこの辺りを占拠できるということだ」 

 奴……いや、ここはあえて「彼」と言っておこう。

 相手に敬意を評するというのは俺も同感だ。

 ふと向こうを見ると少し離れた場所に、逃げて行ったクラスメイト達が木陰からこちらの様子を伺っていた。

 まあ警戒くらいはするよな。

「それで、俺はお前達をどうすればいいんだ?」

「好きにするが良い。皮を剥いで肉を食べるのも、街に連れて行って見世物にするのも、お前の勝手だ」

「何というか、自分のことなのにえらくテキトーだな。まあそれなら俺は勝手にさせて貰うけど。お前たちにはこれから……俺の稽古相手になってもらう!」

「なっ……」

 それを聞いた途端、彼は面食らった表情でこちらを振り返った。

「お前……っ、それでいいのか?」

「いいって何が? ああ、ちゃんと飯とかは食わせてもらえるよう、ほかの奴らに話はしておくぞ?」

「そういうことではなくてだな……私はお前を先程殺そうとした。それなのに……」

「それがどうした? 昨日の敵は今日の味方。お前はもう俺を襲う気はないんだろ? だったらそんなことは問題じゃない。俺は茅野レイジ、これからよろしくな! 」

「……まあ、そんなことを言ってもらって、悪い気はしないな。では……私はガルム、魔獣族の近衛団長をしている」

 お互いに手を取り合い、強く契りを交わす。

 俺たちにとって初めて、この世界の住人の仲間ができた瞬間である。


「話は聞かせてもらったよ」

 聞きなれた声のした方を振り返ると、そこにいたのは調査帰りのレイジとクラスメイト達。

「ユウジ君、まずは状況の報告をお願いできますか?」

 壊滅状態の集落と辺りに寝転がる数匹の狼を見て、委員長はそう俺に質問した。

 もう休んで寝たいところではあるが、そうもいかないらしい……

 

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