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第四十話 報告

 立派な石畳の廊下と、その両端に並べられた大理石の彫像。

 緑色のタペストリに刺しゅうされたこの国の紋章である太陽と月。

 そこを一人の少女が歩いていた。

 名をルナ・イクリプサ・ヴェスパーニア、この国の第一王女であり、将来のこの国の王である。

 今日はいつもの学院の服装ではなく、長くて重たそうな髪と同じ白色のドレスを身にまとっている。

 

 長い廊下を進んだ先で、やがて自分の何倍もあるであろう大きさの重厚感のある扉の前までたどり着いた。

 まるでルナを誘うかのように、扉はひとりでに開く。

 そこへ入って行くと、中に広がっていたのは少し広い空間。

 辺りは豪華な装飾や彫像で飾られ、見るものを圧倒する。  

 その中でも一際目を引くのは、部屋の中央に置かれた金の椅子。 

 おそらくは玉座と呼ばれるものだろう。

 そしてそこに座る白髭の男こそ──

「お久しぶりです。お父様」

「久しいのう、ルナ。それで計画の方は進めておるのか?」

 ルナは思っていた。

 久しぶりの親子の会話なのにも関わらず、私のことは何も聞いてはくれない。

 いつからお父様はこんな冷たいお方になってしまわれたのだろう。

「はい、滞りなく」

 だがそんなことをを思っていても仕方がない。

 時は止まることを知らない。

 その時は、もうすぐそこに。


     *


「『イクリプス』」

 詠唱の完了と同時に杖の先端に青白い光が収束し、強い光を放つ。

「それにしても早かったわね。まさか三日でそれを習得するなんて」

 ルナにそう言われるのも無理はない。

 何と俺は、宮廷魔術師も習得できなかったこの魔法を、たった三日でものにしてしまったのだ。

 まぁ専属の優秀な教師がいたり、練習に夢中になって徹夜したりもしたのだが。

「まぁな。実はこの前の観光で知り合った奴がいて、そいつに指導してもらっていたんだ。もちろん、この魔法のことはなるべく伏せた上で」

「ふぅーん。ま、それならいいケド」

 ここは街のとある喫茶店。

 俺から禁術を習得したという連絡をすりと、ルナにここへ呼び出されたわけだ。

「にしてもこの魔法は本当に禁術なのか? ただ杖の先端が光っているだけだぜ?」

 この魔法が初めて成功した時、宮廷魔術師にも扱えない禁術……と聞いて、どんな恐ろしい魔法が使えるのかと思っていたのに拍子抜けしたのを覚えている。

「それは、その魔法が決まった時間でしか本当の効果が発動しない魔法だからよ。アンタこの世界へ来てから月を見たことがある?」

「ああ、あるけど……」

「その月に違和感を感じたことは?」

 違和感と言って思い浮かんだのは、正直あれしかない。

「ここ数日、月の満ち欠けが止まっていないか?」

 ソーラと出会ったあの日以来、この世界の月は今日まで欠けていない。

 理由はわからないが、かなり奇妙な光景だった。

「そう……原理は分からないけれど、この世界の月は何ヶ月かに一度、月の満ち欠けが止まる。それは五百年前、初めてこの世界へ来た私たちの祖先の記録にも載っていたそうよ。その期間は三十日間、そしてその最後の日に、月は最も大きく美しく輝く」

 いろいろな原理を無視したような現象だが、それが魔法なのだろうか。

「もしかして『イクリプス』が発動できるのは、その最後の日だったりするのか?」

「……ええ、その通りよ」 

「それで『イクリプス』はどんな魔法なんだ?」

 まさかとは思うが世界を滅ぼす的な魔法なんじゃないだろうな。

 禁術って言われているくらいだし、ありえない話ではない。 

 まさかこいつに限ってそんなことは考えていないと思うが……


 俺の言葉に少し考えこんだ後。

 ルナは首を横に振った。

「……それは時が来たら話すわよ。それよりも今日の用事は禁術についての報告ともう一件あってね……」

 席を立ちあがり会計を済ませたルナは、店を出る手前で振り返り、俺に初めて微笑んだ。

「制服の採寸に行きましょう!」

 彼女の笑顔にはなぜだか既視感を覚えた。 

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