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第三十九話 専属教師

「はっ! やっ! はぁっ!」

 ルナから貰った仮の杖が、気合とともに空を切る。

「ま、そりゃ……ね? いくら何でも初日で使えるなんて思ってなかったさ。思っていなかったとも……うん」

 あの話を聞いてから翌日、ルナから貰った借り物の杖で、俺は早速魔法の練習をしているわけだが……

 まぁ上手くいかない。

 

 いやそりゃそうだろう。

 ルナの言う話では、過去にも有名な魔法使いや宮廷魔術師などがこの魔法の使用を試みたが、誰一人として成功した者はいないらしい。

 それなら余計、なぜ俺みたいな魔法初心者にそんな高難易度魔法を託したのかと思うが、ルナの話によると、過去にこの魔法を試した魔法使いの一人いわく「この魔法を使うには数十年以上の修行が必要」、つまり何年、何十年もこの魔法を使うために修行しなくてはならないらしい。

 けれど俺は自分の祝福のおかげでその期間をかなり短縮できるらしく、白羽の矢が立ったらしい。


「よし……」

 杖を肩の高さまで上げ、地面と垂直になるように構える。

「大地を灼く日輪よ、夜を照らす月輪よ。黄昏と暁が混じり合う時、我は世の理の矛盾を操る」

 上位の魔法の行使には詠唱が必要となる。

 杖の先に光が集まり、それと同時に集中力が増す。

「もう一度、暗黒と光明が重なることを我ここに誓わん……! 我が前に統べよ『イクリプス』……!」

 最後に魔法名を詠唱し、杖の先に集まった光が一点に収束する。

 いよいよ魔法が発動しそうな雰囲気ではあったが、光は集まったと同時に「スカッ……」というような音が聞こえてきそうなショボい煙と共に、どこかに消え去ってしまった。

 そしてその場に残ったのは、残ったのは厨二じみた詠唱の余韻と、俺の羞恥だけだった。


     *


 次第に日は暮れ、夜空の向こうから月が現れる。

「あれ……?」

 月は昨日と同じ満月のままだった。

 欠けた様子はない。

 俺の中学校の理科の記憶が正しければ、月は満ち欠けを繰り返すものだったはずだが……

「こんばんは、ユウジ」

 声のする方を振り返ると、そこには昨日と同じ、月明かりに照らされた少女の姿があった。

「ソーラ……」

 やっぱりこの少女は不思議だと思う。

 昨日会って、夜の空中散歩に誘われて、そして今日もまた再会した。

 目的も何も分からない。

 なぜ彼女が俺みたいな見ず知らずの奴と……

「何をしていたの?」

「ああこれは……」

 「禁術の研究」とは言えず。

「魔法の練習だよ。とある奴から俺がある程度魔法を使えるようになったら、学院に入れてくれるって言ってもらったんでね」

 と、誤魔化してみた。

「へぇ……。じゃあ私が手伝ってあげようか?」

「えっ……」

 ソーラからの突然の申し出に最初は若干困惑したものの、よく考えてみればこれはかなりいい話なのではないのだろうか。

 実は散歩から帰った後、俺はルナに気になっていたことを聞いていた。


 この国の人々は魔法で空を飛ぶ。

 だが皆、箒だったり馬車だったり、何かしらの「物」に乗っているのだ。

 ルナ曰く、「物を浮遊させるのは簡単なんだけど、人間とか構造が複雑な生き物を魔法で浮遊させるのは至難の技ね。宮廷魔術師でも虫一匹が限界じゃないかしら?」とのこと。

 つまりこの人間二人を軽々夜明けまで浮遊させていた少女は、宮廷魔術師よりも魔法がより扱えるということになるのだが……

 こいつ一体何者なんだ?

 まぁでも、あまり詮索するのもよしたほうがいいのかもな。

 世の中には知らないほうがいいこともある。

「それじゃ、よろしく頼もうかな。ソーラ先生?」

「ええ、よろしく」

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