第三十四話 第一王女
「えっ……」
「……どちら様?」
白髪の少女は全く予想をしていなかった言葉をサキからかけられて、困惑と同時になかなかのダメージを受けたらしい。
「アっ、アタシよ? ほらルナよ! 学院で同じ学年だった。あなたは旅に出るって言って途中からいなくなっちゃったけれど……。それでも覚えているわよね!?」
あーなるほど……。
どうやらこの『ルナ』と名乗る少女は、サキがまだ協会に所属せず、世界各国を旅してまわっていた時の知り合いなのだろう。
だが今のサキには記憶が完全に戻っていない。
もちろんロギアさんのおかげで手の刻印は消え、もう教会から直接どうこうされる心配はないという。
だが刻印の影響はまだ残っているらしく、未だに彼女は自分のクラスメイトのことを思い出せていない。
今回この少女のことを忘れているのもそれが原因だろう。
「いや……いや? でもどこかで……」
サキはやっぱり思い出せないらしい。
よし、ここは俺がこの少女に事情を――
「君はルナっていうんだよな? 俺はサキと世界を冒険している仲間のユウジ。実は今、サキはとある事情で記憶が――」
「黙りなさい」
俺が彼女に対して話しかけようとしたその時、彼女がサキに向けていた優しい口調はトンんでもなく攻撃的なものに変わり、思わず「えっ……」と声を漏らしてしまう。
「私が今話しているのはサキよ。あなたみたいな下賤の者と、高貴な私は会話などしたくはありません」
なんだこいつ……!?
初対面のくせしてえらく上から目線だな、オイ……
「下賤の者って……あんたは一体誰なんだよ」
「無礼者め!」
俺の言葉が何かこの少女を刺激させたのか、彼女の後ろに控えていた護衛が俺に向かって槍を突き付ける。
「この紋章が目に入らぬか! こちらにおわせられるお方をどなたと心得る!」
そういって兵士の一人が指示したのは、彼女の胸の太陽が描かれた首飾り。
「入るか! そんなもの! 第一、俺たちはこの街に来たばっかりだし、あんたらのことなんか知らねぇよ!」
「何だと! 無礼な奴め……」
そうして再び俺に向けられた槍を、彼女はスッ……と手を出して、槍を突き付けてきた兵士を止める。
「いいでしょう……。ならば一度だけ……特別に……本当はあなたに名乗る価値はないのだけれど……私のことを知らないようなので……? 仕方なく名乗ってあげます。その腐った耳をよく傾けて聞き、そして私に平伏しなさい!」
何だろう……
言動の一つ一つに一々腹が立ってくる。
「私の名は『ルナ・イクリプ・ヴェスパーニア』、この魔導王朝ヴェスパーニアの第一王女よ! 分かったなら、私に対する態度を改めることね!」
カッコよくポーズまで決めて気持ち良さそうに人を見下している彼女に対して、俺が放った言葉は――
「断る」
「何でよ!」




