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第三十一話 働かざる者食うべからず

 これは小さい頃に聞いたおとぎ話。

 遥か昔、世界は光と闇で争い合っていた。

 光と闇は数千年にも及ぶ戦争の中で、互いに擦り減り疲弊していった。

 でもある時、誰だったかは分からないが、この戦いを止めようとした者が現れる。

 その者は光と闇の両者を説得し、戦争を止めようとした。

 それに応じた互いの王は、自身の子と相手の子に婚約を結ばせ、その二人の間に産まれた双子を、和平の象徴とした。

 これはただのおとぎ話。

 おとぎ話に過ぎない。


     *


 肌を焼くような強い日差し。

 蒸し暑い気候。

 どうやらこの世界にも夏自体はあるらしく、あの森にいた時とは違って、随分と暑い。

 とにかく暑い。

 まぁそれよりも……

「今はこの状況をどうにかしないとな……」

 赤く厚く、鋼のように硬い皮膚、筋骨隆々、二階建ての家程の巨体、頭に生えた2本の角、前に向かって開いた大きな二つの鼻の穴。

 その見た目から判断するに、コイツらはいわゆる『オーク』というやつなのだろう。

 それが5体……!

「おいおい、初っ端から大ピンチかよ」

「変な無駄口叩いてないで、手伝いなさいよ!」

「うおっと……!」

 サキは後ろの奴を相手しているようだが、正直こっちに余裕はない。

 オークってこんなに強かったっけ……

 もっとこう、序盤に出てくる雑魚の代名詞みたいなやつらじゃなかったっけ……!?

「う゛ぉおおおおおお!」

 その内の一体が振り下ろした拳をかわして、そのうちにできた隙に、顔に剣を刺し込んだ。

 そしてオークは顔を抑えてのたうちまわり、次第に力の抜けたように動きを止めた。

「まぁでも、なんとか倒せそうではあるな……」

 俺とレイジ、サキの方も大丈夫そうだ。ただ──

「心配なのはアイツらか……」

 そう、心配なのは……

「ヒィイイイ……! 来ないでっ! こっち来ないでぇ!」

 ひたすらにただ情けない声をあげながら、オークに追いかけ回される少女と。

「ちょっと高憧さん!? そんなに逃げまわらないでくださる!?」

「お嬢様、こっちです。こっちに魔物を誘導して下さい」

「メグミ! 貴女いくら暑いからって、主人である私をおいて木陰から動かないのはどうかと思いますのよ!?」

 さらにそれを追いかけ回すお嬢様と、働かないメイド。

 おいなんだこの状況は。

「ハハッ……、相変わらずだねあそこは」

「おお、もうそっちは終わったのか?」

「ああ」

「アタシもね。で……あの三人は……」

「あんな感じだね」

「ハハ……」

 楽園から旅立って、もうかれこれひと月は経つ。

 あれから俺たちは、魔導王朝ヴェスパーニアを目指して旅を続けていた、のだが……

 出発の直前に仲間に加わったこの三人……全っ然役にたたねぇ!

 まず高憧さん。

 彼女の祝福は『吟唱(エンチャント)』。

 歌を歌ったり楽器を演奏することで、仲間の傷を癒したりできるという、RPGにはよくあるタイプの強力な能力……の筈なんだが。

 極度の恥ずかしがり屋が影響して、大きな声ではまず歌ってくれない。

 それに声が小さいので、吟唱の効果も低く。

 擦り傷一つ治すのに十分はかかる。 

 楽器でもいいんだから、ヴェスパーニアに着いたら楽器を探してみよう……


 久世のお嬢様は、確かに祝福のおかげでパワーはすごい。

 この前、旅立の途中で見つけた邪魔な大木を片手で握り潰していたのを見た時は度肝を抜かれた。

 ただ元々この世界で生きてきた年月の長いサキや、武道には覚えのある俺とレイジとは違い、戦いは素人。

 よって役にたたねぇ……

 

 そしてメイドの森野。

 コイツに言えることは一つ……

 働けっ……!!

「(いい加減にしねぇとメシ抜きだぞ!)」

 俺のそんな視線を感じ取ったのか、森野はささっとお嬢の援護へ向かった。

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