第二十九話 小熊座(3)
「私も……私も皆さんに同行させて下さい……!」
真面目に髪を二つに結び、黒縁の丸メガネの彼女の名前は高憧悠那。
いわゆるコミュ障である。
コミュ障に引っ込み思案、人見知りという性格が影響して普段クラスメイトと関わる事はほとんどなく、陰キャと呼ばれるポジションの彼女。
学校ではもちろんかなり大人しく、関わりのあるものも少ないので、彼女がどんな人物であるのか知っている者は少ない。
そしてその〝少ない〟の中には俺が入っていたりする。
たまたま彼女と家が近所だった俺は見てしまった……
彼女が虫に鳥、果ては電柱にまで話しかけ、項垂れている姿を……!
そう、彼女はあまりの友達欲しさに色々なものに話しかけていたのだ。
なんというか、将来が色んな意味で心配だよ……
「私っ……私なんかじゃ足手纏いになっちゃうのかもしれません。私は人と話すの苦手だし、怖いし……。でも、私もこのままじゃ嫌なんです……! この冒険で、私は変わりたい。友達を創りたいんです……!」
それでも、覚悟はあるらしい。
「本当にいいのか? 安全なんて保証はできないぞ?」
「はい! 承知の上です。でもだからこそ、私はこの冒険で自分を変えられると信じているんです……!」
彼女は力強く答えた。
「そのいきやよし! よろしくな!」
「はい……!」
「ほう……なんというか、随分と個性的なメンバーが揃いましたね」
「おっ、委員長じゃねぇか。どした、こんな朝っぱらから……ってみんなも」
そこに集まってきていたのは、ここに残る予定のメンバー全員。
「おいおい、だいぶ豪華な見送りだな」
「確かにね」
すると突然、委員長から一つの大きな袋が手渡された。
「これはみんなからのプレゼントです。激励の品っていうものですかね」
「激励の品ねぇ……。これは……」
袋の中に入っていたのは、今では懐かしい元の世界の品物。
お菓子やリップクリーム、ポケットティッシュなどの品を見るとなんだかとても懐かしい気持ちになった。
しかしその中でも──
「なぁっ……! こっ、これは……!」
「どうしましたの……? なんだかもの凄く震えていますけど、体調が悪いのですか?」
「ああ、今まではこれがなかったせいで、体調が悪かったな……」
「これというのは……」
「これだよこれ! 全て生命の根源であり、人類史上最も偉大な発明。何にかけても直接でもミシュランのレストランを凌ぐ絶品調味料! MAYONNAISEだよ!」
これがあれば俺はどんな大病だってたちまちに治る。
間違いなく世界、いや。
異世界でも最高の食材だ!
「言っておきますけれど、マヨネーズは直接食べるものではありませんのよ?」
さて、そして遂に別れの時がやってきた。
「本当に行くんですね」
「ああ……」
委員長が少し悲しそうな目で俺たちを見つめる。
実は委員長は俺たちの旅に同行したいと言ってきてはいたが、俺から断っておいた。
委員長には、ここに残るみんなおおいを支えて導いて欲しい。
委員長は俺からのそのお願いを理解してくれた。
それでもやっぱり辛いのはあるだろう、だから──
「安心しろって。俺たちが必ずみんなを元の世界へ帰してみせる。」
「違うだろユウジ? みんなで帰るんだ」
肌寒い朝、なのにもかかわらず、なんだかその言葉を聞いて胸の奥が熱くなる。
「私たちは待っています。いつまでも……」
「ああ、気長に待っていてくれ」
「お前たち、もう出発するのか?」
「お早いですね」
現れたのはガルムとロギアさんの二人。
きっと見送りに来てくれたのだろう。
「ああ、冒険を始めるなら早い方がいいだろ?」
「そうか。まぁ私からわざわざ言うことは特に無い。自分の信じた道を行くと良い。だが死ぬなよ?」
「ったりめぇだ」
「食糧は持ちましたか? 寝袋は? 忘れ物はありませんか?」
特に心配な様子などは見せないガルムに対して、か過保護なまでに心配性なロギアさん。
これが母性というやつか?
「大丈夫ですって。ところで……ガルム達はどうやって移動するんだ?」
いや、普通に考えればそのまま歩いて行くんだろうが、あまりにも荷物が多すぎる。
数百頭の動物用の食べ物、それも何日も保たせるために、相当な量を用意していたはずだが……
「あれ? ユウジ、気がついてなかった?」
「なんだよ? 何を気付くっていうんだ?」
そう言ってレイジが指差したのは、この楽園の中央に鎮座する大きな一枚岩。
そしてそれをよく見てみた瞬間、俺は理解した。
前から疑問に思っていたのだが、この場所の名前である。
『ポラリス』というのは北極星のこと。
そして北極星は星座のこぐま座で最も明るい星……
「そういうことかよ……」
突然あの大岩がゆっくりと動き出し、丸まっていた体から足や顔が現れる。
そう、あの岩の正体。
それは──
「でっけぇクマかよ」




