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第二十九話 小熊座(2)

 水場で顔を洗い、眠気を覚ます。

 野菜中心の食事を済ませた後、制服のネクタイを結び直し、ベルトに剣を差し込む。

「さて、と……」

 今日はいよいよ旅立ちの日。

 そしてお別れの日だ。


 外は思っていたよりも静かで、動物たちの姿もまばらだった。

 朝のすがすがしいい空気を吸い込んで吐き出すと、それと同時に体内の毒素が抜けていくような感覚がして心地よい。

「起きたかい?」

「ああ、二人とも」

「今日はいよいよ出発の日だね」

 ああそうだ、今日でこの場所とはお別れ、何だかんだそれなりの日数を過ごしたこの場所には、とても愛着を持っていて、正直もう少しここにいたい気持ちはあるものの……

「あっ……!」

 そう声を上げたサキが指さした先には、木陰からあの巨大な世界樹が遠くに見えていた。

「なぁ……」

「ん……?」

「あの神は、あそこから俺たちのことを見ているのかな……」

「知らないわよ。でも……きっとそうよ。待ってなさい! いつかあの木を登って、必ず元の世界へ帰して貰うんだから!」

 あの神が何を考えて、何を想ってこの世界を創り、俺たちをこの世界に呼び出したのかは分からない。

 でも、それがなんであろうと、俺たちは元の世界へ帰るんだ。

 それだけは変わらない。

「さて、それだけのメンバーが揃っているかな……」


 昨日の内に、俺たちと一緒に旅に出たい奴らは西の大木の下に集まってくれと言ってある。

 でも正直、あまり期待はしていない。

 期待はしていなかったんだけど……

「いや、まさか……」

「ゼロとはね……」

 期待はしてなかったよ?

 でも数人くらいはいると思うじゃん?

 えっ……? 異世界を冒険するんだぜ?

 そりゃ危険だけど、まるで転生ファンタジーの主人公がやるような憧れのシチュエーションだよ?

 もっと憧れてよ!?

「まぁしょうがないさ。僕たちだけで行くしかないよ」

 いやまぁレイジの言う通りではあるんだが……

「お嬢様! 早くなさって下さい!」

 ん? この声は……

「はぁ……はぁ……。いくらなんでもっ……朝早すぎじゃありませんの?」

 息をきらしながら必死に走ってきたのは、金持ちお嬢の久世露と、お世話係兼同級生の森野恵。

「あれ? 森野と久世お嬢じゃねぇか。どした? 出発はもう少し後だから、まだ休んでて良かったんだぜ?」

 まさに、「さっき起きました」と言わんばかりのお嬢様らしくない乱れた髪で登場したお嬢。

「違いますわよ! わたっ……ワタクシも、あなた達について行きたいんです!」

「……?」

 俺は森野の方を見る。

「お嬢様は本気です。因みに私も同行しますよ?」

「……? えっ? 本当に?」

「なんですその失礼な態度は? 私だって冒険に参加したいのです!」

「ええっ!?」

 それを聞いて初めて俺が思ったのは「こいつ大丈夫か……?」というものである。

 仲間が増えてくれるのは正直うれしい。

 しかし、いつも余裕たっぷりに振舞っている彼女だが、正直この箱入り娘はかなり鈍臭いので本当に冒険について来れるのだろうか……

 それに、この一見大人しそうな黒髪メイド森野。

 実は結構な腹黒、しかも武術の達人で、お嬢の護衛も兼任しているらしい。

「あ、あの……」

「でもいいんじゃない? 仲間が増えて困ることはないよ」

「あの……」

「まぁそれはそうか……。それじゃっ、よろしく頼むぜ二人とも!」

「あ……」

「ええ、ワタクシに任せなさい!」

「これからどうぞ宜しくお願いします」

「あっ、あの!」

「わっ、びっくりした!?」

 突然聞こえた声に驚き、声のした方を見ると、そこには見覚えのあるある一人の少女が恥ずかしそうに内股で立っていた。

「私も……私も皆さんに同行させて下さい……!」

 彼女の名前は高憧(たかはた)悠那。

 簡単に言ってしまえば、コミュ障の音楽少女である。

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