第二十八話 霧の中
「はぁ……」
形成が完全に逆転し、勝ち目がなくなったと判断したのか、奴は急に静かになり、下をうつむいて動きを止める。
「もういい……」
そして、何やらぶつぶつと語り出したが、あまりに声が小さいので聞いとることはできなかった。
「っ……! 待て……!」
そして突然ガルムがそんな声を上げたかと思うと、奴の周りで突然煙が発生し、それは奴を包むように集束したかと思うと、煙が消えると同時に奴の姿も消えていた。
「はぁ……全く……」
「……!?」
突然、辺りにマモンの声が響く。
どこから聞こえてくるでもなく、まるで全方向から聞こえているような……
「今回は見逃してやろう。だが、教会の呪縛からは逃れられない。せいぜい頑張って生きるんだな。では……また会おう」
それっきり、奴の声が響くことはなかった――
*
「おい、物資は全部運び込んだか?」
「こっちに人手が足りていない。もっと人員を――」
あわただしく作業を行う動物と人間たち。
多くの物資や物をあの大岩に積み込んで、何かの準備を整えている。
「なんだ、ここにいたの?」
作業につかれて木陰で休んでいた俺に後ろから声をかけてきたのはサキだった。
あの後俺たちはすぐに楽園の被害状況の確認に向かった。
幸いにも建物や物などは多く破壊されていたが犠牲はほとんどなく、あんなヤバそうな奴らが襲撃してきた割には、被害は少なかった。
しかし、この場所がバレてしまった以上、次いつまた襲撃されるか分からないこの場所から移動しなければならなくなってしまったという。
けど――
「移動をするのなら、どうしてわざわざ物をあの大岩に運び込むんだ?」
「……」
サキが何だか俺の方を見て、「フフッ」と微笑んだ。
コイツ何か知っていやがるな。
「物資の積み込みは……よし! これで最後だ!」
遠くで誰かが大きな声でそうみんなに知らせる。
「おっ、どうやら作業はもう終わったみたいだな」
「今日はどうやら出発前の宴をするらしいわよ」
まぁとは言っても、出てくるのは生野菜か生肉だろうが……
せめて塩コショウが欲しいと言いたいが、この場所では少し贅沢だろうか?
「みなさん、先日は本当にありがとうございました。みなさんのお陰で、教会の兵たちを退けることに成功し、多くの命が護られました。しかし少なからず犠牲になってしまった同胞もいたはずです。彼らに祈りを、どうか安らかでありますように──」
ロギアさんの言葉で動物達は姿勢を低くして首を垂れる。
俺たちもそれに合わせて、黙祷を捧げた。
「今日は皆さんへの感謝を込めて、犠牲者の冥福を祈って、そして明日の大移動へ向けて英気を養ってください」
その場では歓声が巻き起こった。
「あら、サキさん。どうしたのですか?」
俺はサキがロギアの元で何か話をしているのを目撃した。
「ごめんなさい……。今回の襲撃は多分私の……」
悲しそうな顔で俯くサキの手を、ロギアは優しく握った。
「大丈夫。貴女のおかげでみんなが助かった。これは誇っていいことよ。貴女は自身を縛っていたものを乗り越えて、みんなを救った。私は貴女を信じています」
そしてその時、サキの左手の甲が光り始めたかと思うと、あの刻印は徐々に消えていき、光の消失と共に刻印も完全に消え去った。
「これもだいぶ力が弱まってきていたので、解呪しておきました。これで貴女を縛るものは何もありません」
サキの目から抑えきれなくなった感情が涙として溢れる。
「ありがとう……ありがとう……ございます……」
俺たちはしばらくの間、食事や会話を楽しみ、英気を養った。
そして──
「みんな、聞いて欲しいことがある」
かねてから考えていた。
このままこの場所で庇護してもらっていてもいいが、俺たちの目標である『元の世界への帰還』。
そのための世界樹への登頂は、進展しない。
けれどそれは、かなりの危険を伴うものとなるだろう。
だからこそ──
「俺は明日、この世界から抜け出すためのヒントを探すために旅に出る。そこで、俺と共についてきてくれる仲間をこの中から探したい」




