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第二十六話 恐れ慄け

「マモン……」

 男の喋り方はかなり独特で、激しい抑揚をつけたような喋り方をするせいか、不思議と恐ろしい感覚はなかった。

 しかし、こいつは今自分のことを祓魔師と言った。

 役職を持っているということはそれだけ高い地位にいるということ。

「まさか『天上人』が出てくるとはな」

「ほうほうほうほう、私のことをご存じで?」

「天上って……」

 俺は実は以前、ガルムから教会のことについて聞かされていた。

 教会には法皇を除いた七人で構成される最高幹部たちが存在していて、それを『天上人』と呼ぶらしい。

「教会の最高幹部……」

 おいおい、いきなり大物の登場かよ……

 まだ俺たちにはこものでじゅうぶんだっての……

「とは言っても、私はそれほど腕は立ちませんがね。……おや?」

 すると、何かを見つけた様子のマモン、その視線は俺の後ろに隠れながら奴の様子をうかがうサキに向けられていた。

「おや、おやおやおやおやおやぁ…………。お久しぶりです。どうやらずいぶん信仰心が揺らいでしまっているようですが、どうなされました?」

 目をなるべく合わせないように俺の裾を掴む彼女の手は、小刻みに震えていた。

「おいあんた。マモンさんだっけか? 悪いがサキは棄教したいんだとよ? 手続きが必要なら俺がやるから、退会手続きの書類でもなんでも持ってきてはくれないか?」

 俺が喋り終わるとマモンは気の抜けた笑い声をあげた後。

「棄教? なぜ? どうして? なんのために? どこにそんな必要があるのです。我々は貴女をこれまで献身的支え、共に歩んできたではありませんか? それを今になってどうして……」

「あんまりふざけたことを吐かすなよ。お前がどんな奴で、サキにどんなことをしてきたのかは知らない。けど、サキは嫌がっているんだ。こいつと、この場所からは手を引け。じゃないと、俺は──」

「──何?」

 先程よりも一段低い声で、不可解な挙動をしながらも、その目は俺の方を真っ直ぐ向いていた。

「なぜお前はこの私に命令したんだ……? 私はこうやって……丁寧に……頼んでいるのに? なぜお前が! 何をもって! 何を根拠に私に命令している!!」

「っ……!?」

 奴は全身を掻きむしり、頭の毛を怒りのままに抜き続ける。

 そうしているうちに服装や髪型は乱れ、怒り狂った奴の態度に、紳士的な部分はカケラも見られない。

 いくらなんでも怒りの沸点低すぎるだろ!?

 カルシウム足りてないのか?

「もういい……。折角こっちが下手に出て丁寧に接してやったというのに……これだから背教者は嫌いなんだ」

「俺だって宗教の勧誘は嫌いだっての……」

 幹部だかなんだか知らないが、周りの状況も気になる。

 できればさっさと倒して、みんなに加勢しに行きたいんだけど……

「最後に……もう一度警告をして差し上げます。今すぐに自分の非を認め、私に首を垂れて命乞いをするのであれば許して差し上げましょう」

「誰がそんなことを……! ユウジ! レイジ! 時間はあまりかけたくない。一気にかたをつけるぞ! サキはそこで待っておれ」

 ガルムの合図で俺たちは一斉に三手に別れ、多方向から奴に向かって一気に攻める。

 奴はそれでも一歩も動かない。

 何を考えていやがる……

 いや、考えるよりも先にアイツを倒してしまおう。


 だが、この時の俺の考えが甘過ぎたということは、その後すぐにわかった。


「っ……!?」

「なんだっ……」

 突如、まるで機械の電源を切られたように、足の力が入らなくなった。

 そのせいで俺はその場に思わず座り込んでしまう。

 それは他の二人も同じような様子だった。

 しかもそれだけじゃない。

 先程から足の震えが止まらないのだ。

 おまけに動悸もひどい。

 呼吸が乱れ息苦しい。

 そして何より……

「なんで……なんでこんなに怖いんだ」

 さっきまでまるで感じなかった恐怖の感覚が俺を襲う。

 そのせいで立ちたくても立てない。

 冷静さも徐々に失われていく。

「フハハハハッ! 実に滑稽ですね! 先程までの威勢はどうしたのです?」

「テメ……一体何を……」

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