第十三話 精霊の姫
楽園の中心地にそびえる巨大な一枚岩。
そこに空いた洞穴の一つ。
そこはほかの洞穴よりも一回り大きく、入り口には花や苔で装飾が施され、おまけに護衛までついている。
もちろん動物の。
「何というか、ここだけ雰囲気が違うな……」
「我々にとって、とても大切なお方がおあせられる場所。これだけのことをするのは当然だ」
「これから偉う人に会うらしいから失礼のないようにね?」
レイジがそう言って俺の方を見る。
「なんで俺を見るんだよ」
「いやだって、レイジに言ったことだし」
お前は俺の保護者かっ!
「俺はちゃんと礼儀をわきまえれる男だぞ! ……おい、そんな目で俺を見るなよ。俺は本当にそういうのはちゃんとできるタイプの人間だからなっ!?」
レイジの俺への疑いの視線は変わらなかった。
そうこうしている内に、俺たちは洞穴の中にある両開きの扉まで辿り着いた。
ここにも門番が控えガルムが合図をすると、両側に控えていた門番たちが扉を開く。
「ここに人系の種族が来るのは初めてですね。旅の方々、どうぞ中へ――」
そう言って俺たちは甘い声の誰かに呼ばれ、中へと歩みを進める。
扉の向こうは少し広い部屋のようになっていて、壁一面に花が飾られており、いい香りが漂ってくる。
そして、その部屋の最奥にあるイスをかたどったような木の根にゆったりと腰掛ける人物がいた。
薄いレースの布でできた服は、大事なところを隠すのみで、その他の部位は何も身にまとっていない。
その服と同じ色の薄桃色の髪の毛からは、なんだか心が休まるような甘い香りがした。
見た目こそ俺たちと同じ十代後半の女性だが、優しそうな笑みを浮かべた彼女からは何ともいえない母性を感じる。
「姫様、ただいま先の任務より帰還いたしました」
「では、その報告は?」
「本来の目的は我々の領地に拠点を構えた者共を追い払うことでしたが、私は彼らに敗北しました。しかし、死を待つのみと思っていた我々を、この者たちは我々を仲間として快く迎えてくれました。そんな彼らを見込み、今日この場へ案内する次第となりました」
「ほう……」
ガルムからの報告を聞いたあと、彼女は俺たちをまじまじと観察してきた。
「こんにちは皆さん。私はロギア。見ての通り精霊です。私はここ、楽園の管理をしているんです。あなたたちは、なんという国からきたのですか?」
その問いに委員長が答える。
「はい、私たちは人間という種族です。代表して名前を申し上げると、私は早水紗枝。私たちは日本という国からこの世界へ召喚されました。まだ私たちはこの世界について何も知らぬ故、しばらくこの場所での滞在を許可願えないでしょうか?」
委員長はそう言って頭を下げる。
さすが委員長、礼儀正しい言葉遣いと作法だ。
「はい、良いでしょう。それを許可します。是非ここ楽園を楽しんでいって下さい……ただし……」
彼女が快く笑顔で頷いてくれたのと同時に、どこからともなく大勢の肉食動物たちがこの部屋に入ってくる。
そしてそれらは、俺たち全員ではなく、ある一人を囲んだ。
「サキ!」
「えっ……何? なんなの!?」
「姫様、これはどういう……」
「キャッ……!」
その次に、突如としてどこからともなく現れた縄に、サキは全身を拘束される。
サキは必死に抵抗するが、拘束はびくともしなかった。
「っ……! おいアンタ! これはどういう──」
「これより、彼女を拘束し尋問、その後処刑します」
「なにっ……」
穏やかな笑みを浮かべていた精霊サマは、先程の様子からは想像できないような、冷たい眼差しをサキに向けていた。




