第十話 タルワール
「なるべく荷物は最小限に! 貴重な物資だから丁寧に扱って!」
「ちょっと、こっちの人手が足りてないわよ! 誰か来て!」
「今行く!」
クラスメイト全員が慌ただしく行き交い、食料などの物資をガルムの子分達の背に乗せていく。
俺たちはあのあと話し合った結果、ガルムの案内で
ここから南西にある獣達が住まう里『ポラリス』へと向かうことになった。
ガルム達、魔獣族ならば半日もしない内に着くらしいが、俺たち人間の足では長旅が予想されるため、こうやってクラスメイト分の食料をガルムなった子分たちの背に積み込んでいるのだ。
「こっちは終わったぞ! あとは……」
「ユウジ、ちょっといいか?」
声のした方を振り返ると、そこには土木作業でもしてきたのか、全身に土埃を被ったレイジが、何やら布で包まれた棒状の何かを携えて立っていた。
「実はだな、君に渡したい物があるんだなぁ……何だと思うかい? 当ててみな?」
「勿体ぶらなくても、その手にあるものだろう?」
「何だろう……そこはもっと乗ってきて欲しかったなぁ……」
ガルムとの戦いで全身筋肉痛の中で、こんな肉体労働をして疲れているのにそんな余裕があるかっ!
──と思いながらも、その手にあるものはやっぱり気になっていた。
そんなことを考えていた中、レイジが布から棒状の何かを取り出す。
そしてその正体は……
「剣?」
現れたのは赤い鞘におさまった曲剣。
レイジが鞘から取り出すと、現れた刀身は日本刀に近しい反りのあるものになっていたが、装飾が施され、異国の雰囲気を感じさせる。
「ああ、タルワールっていう曲剣らしいぜ。切れ味は抜群、日本刀と使い勝手はちと違うが、扱えれば強力な性能を誇る」
「こんなものをどこで……」
今まで俺たちの武器は、棍棒や木の槍など原始的なものばかりだったのにも関わらず、急に鉄製の品が出てくるなんて……
時代をいくつかすっとばしてしまった。
「これは教会の奴らに出会った時、受け取っていた物資の一つだよ。護身用に持たせてくれたんだ」
「なるほどね……でも何で俺になんだ?」
いくらそうであったとして、これが貴重なものであることには変わりない。
「決まっているだろうよ? 俺はお前を信頼している。だからこそユウジにその剣を託したんだ」
そんなことを言われると、何だか鼻がむず痒い。
俺は剣を受け取って、もう一度その刀身を眺める。
綺麗な銀色の光を発するいい剣だ。
切れ味を上げるために刀身は薄くつくられており、扱いを間違えるとすぐに破損してしまうかもしれない。
「大切に扱わせてもらうぜ! その期待に恥じないようにな」
「そう来なくっちゃ、相棒!」
俺たちは固く拳をかちあわせた。
*
「委員長、こっちの準備は終わりました!」
「こっちも完了です」
全ての準備が完了し、あとは出発するだけの状態。
しかし委員長こと彼女、早水紗枝には一つ決めなければいけないことがあった。
「朝田さん、あとはあなたがどうするかです。教会へ帰るのも、私たちと共に行くのも、それはあなたが決めることよ」
「……」
サキさんはあの時から、ずっと下を向いている。
そりゃ辛いだろう。
今まで苦楽を共にしてきた仲間を失い、信用していた組織に裏切られ、おまけに大切な仲間の記憶をも奪われてしまっている。
けれど……
「サキさん、いえサキ。君がどんな判断をするかは自由だ。それはサキの権利だし、それを誰も犯すことはできない。けれど、もし俺たちと一緒に来るというのなら、俺たちは全力で君を助ける。そして約束する……俺は君を守るし、絶対に死なない。絶対に君を……一人にしない……!」
俺は彼女の手を差し伸べた。
たとえ辛くても今はこんな所で、立ち止まっていてはいけない。
頼む……俺の手をとってくれ……!
すると彼女はその場から立ち上がり、懐の中を探る。
そして彼女がそこから取り出したのは──
「ん?」
一言で言えば、それは拳銃──
リボルバータイプの拳銃だった。
そしてなんと、サキは銃口を俺に向けて構える。
「えっ!? ちょまっ……」
大きな爆発音が辺りに響きわたり、銃口からは灰色の煙がたつ。
あの時俺は慌てて地面に伏せ、なんとか銃弾は当たらずに済んだ。
そしてそれと同時に、俺は激しく混乱した。
「どっ、どうしたっ!? 俺、何か気に触ること言った!? それなら謝る! 謝るからまずはそれを……」
ドサッ……
俺の背後からそんな音が聞こえた。
大きな何かが、自然に倒れ込んだ音。
俺が背後を振り返ると、そこにはこの辺りの危険な生物だった猪のようなやつが横に倒れており、奴の脳天には銃弾が貫通したありがあった。
「ふふっ……」
俺が唖然としていると、サキが軽く笑う。
「ユウジさん、いえユウジ。あなたはすごいですね。助けたいと思った相手に、すぐに手を差し伸べられる……わかりました、私もあなたたちと共に行きます。この世界の真実を知るため、元の世界へと帰るため──でも……自分の身くらいはある程度守れるし、お荷物になるつもりもない」
彼女はローブを脱ぎ捨てると、その下から現れたのは、おそらく彼女の学校のものと思われるブレザーの制服。
しかし腰にはベルトを巻き右腰と左腰、両方に拳銃という物騒なものを装備している。
そして、彼女は俺に向かって手を差し伸ばす。
「これからよろしくね、ユウジ!」
彼女は微笑んだ。
それはこの前の天使のような微笑みではなく、無邪気で悪戯心溢れる純粋な笑顔。
これがきっと彼女の本当のなのだろう。
「ったく……驚かせやがって……でも、俺は気に入ったよ、君の笑顔」
俺は彼女の手を取り、固い握手を交わした。




