縁日
かなり前に書いたSS小説があったので、手直しして投稿してみました
つまらないものですが、宜しければお読み下さい
誤字脱字はお目こぼしをお願いします
祭り囃子が鳴り響く神社の鳥居で周囲の人を見る
「まだ来ていないか」
腕時計は17:20を表示していた
約束の時間は17:40なので、早すぎとは思わないが、遅れるよりはいいと少し早めに来たのだ
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ー(お願いがあります。私と縁日を一緒にまわってくれませんか?)ー
数日前、俺は一人の女性に声をかけられた
彼女との出会いは縁日が行われる数日前の神社の前
暑い日射しにうんざりしながら歩いていた時、神社の鳥居の下に彼女がいた
麦わら帽子をかぶり、白いワンピースを着た姿は、まるで一枚の絵かと錯覚するほどであった。
俺はあまりにも綺麗な光景に目を奪われ、その場で立ち止まってしまっていた
すると、彼女はこちらに気がつき笑顔で話しかけて来た
少し警戒したが、話を聞くと久しぶりにこの場所へ来たとの事
そして近々縁日があるのだが、一人では心細いと言っていた
人助けと思って一緒に見てまわる事を了承し、時間と場所を決めた後、俺は彼女と別れた
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「すみません、お待たせしました。」
声のする方を見ると浴衣姿の彼女がいた
「いや、時間より早いから大丈夫だ。俺もさっき来たんだ。…じゃあ、見てまわるか」
彼女にそう言うと出店の並ぶ道へ視線を向けた
「はい。よろしくお願いします」
彼女は笑顔で隣に立ち、二人で出店を見るため歩き始めた
「さて、何から見ようか?大雑把に分けると食べ物かその他だが···。まずは全体を見てみる?」
「そうですね。まずは全体を見ましょうか。縁日も始まったばかりなので、ゆっくりまわっても売り切れとかにはならないでしょう」
彼女は頷き歩きだす
(それもそうだな。一周して気になった所へ行こう)
俺は彼女の背中を追う様に歩きだした
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一通り見たところ、彼女がふと足を止めて一つの屋台を見ていた
(何か気になる店があったのか?)
彼女の視線の先には、横長のカウンターがあり、奥には3段程の棚に色々な品が並べられ、カウンターには空気銃が置いてあり、隣にコルク栓が5個入った皿が置いてある
最近の祭りでは見かけなくなった『射的』の屋台だ
「射的の屋台とは珍しいな。輪投げとかならまだ見るけど、射的はほぼ見なくなったからな」
「そうですね。コルク栓とは言え、危険ですからね。」
「確かにな。注意書きがあるな」
『子供のみ(小学生以下)お断り※保護者同伴は可』『危険行為をされた場合は警備・警察に通報します』
「(うん。ちゃんとしてるな。)せっかくだし、やってみるか。射的は昔やった事あるからやりたくなった」
「良いですね。私は見てますのでどうぞ」
彼女の許可も得たので店員にお金を払い、俺は久しぶりの射的を楽しんだ
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「ありがとうございます。大事にしますね」
笑顔で礼を言う彼女の手には十字架の飾り(チェーン付)が握られている
射的をする事にしたが、特に欲しい物もないので、彼女に「欲しいあるか?」と聞いてみた
「あの十字架の飾りが欲しいです。2つあるので、どちらか取れませんか?」
見ると赤色の十字架の飾りと青色の十字架の飾りがあり、試しに狙ってみると、赤色の十字架の飾りを運良く取れたので、彼女にあげたのだ
「そんなのでいいのか?子供の玩具みたいな物だろ?」
もう少し良い品もあったのだが、彼女は首を横にふり
「いえ、これが良いんです」
と、笑顔で答える
(まぁ、本人が欲しいと言った物だから良いか)
そんな事を思いつつ、他の出店を一通り見る為俺達は歩きだした
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出店を回り終えた俺達は鳥居の下にいた
「今日はありがとうございました。楽しかったです」
「いや、こちらこそ楽しかったよ。久々に縁日回ったから、色々変わってたしな」
「そうですね。前に来た時は子供の頃だったので、変わったお店もありました」
「あ~、確かに子供の頃に比べれば変わったなぁ」
と話をしていたら、いい時間になったので、解散の流れとなった
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そして一年が過ぎ、俺は神社の縁日に合わせて再びこの場所に訪れていた
(彼女に会えるかもしれない)
そんな事を思いながら鳥居を潜ろうとした時、初老の女性に声をかけられた
「あの···すみませんが、去年この女性と縁日を一緒に回って頂いた方ですか?」
女性は1枚の写真を見せて来た
「はい。彼女と縁日を回ったのは自分です。」
写真を見て間違いないと答えると、女性は1通の手紙を取り出した
「···私の娘がお世話になりました。娘にこの手紙を渡して欲しいとお願いされまして、この神社に来ました。無事に会えて良かったです。『今日会えなければ手紙は捨てて欲しい』と言われていました。···本当に渡せて良かった。」
「それは···こちらも会えて良かったです。『去年来たから今年も見てみるか』くらいの気持ちだったので」
俺はそう話すと彼女の母親から手紙を受け取った
話を聞くと、彼女は数年前に体調を崩し、此方に養生生活をしていて、俺と会った日は体調が良くて散歩をしていた時だったそうだ
彼女は去年の縁日の数日後に体調をくずして入院していたが、そのまま亡くなったらしい
「私はこれで失礼します。本当に娘がお世話になりました。」
そう言った女性は、一礼して去って行った
(手紙···とりあえず読んでみるか···)
手紙の封を切り、中を見ると1枚の便箋と2つの十字架の飾りが入っていた
(片方は随分と古いな?もう1つは去年あげた赤色の飾りか···。どういう事だ?)
2つの十字架に疑問を抱くが、便箋に答えがあると思い、便箋を開いて目を通してゆく
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お久しぶりです
本当は今年も貴方と縁日を回りたかったのですが、それは叶わないと思い、手紙をお送りします。
私は子供の頃、貴方と1度縁日を回った事があります。
親の実家の近くでこの縁日があったのですが、親が一緒に来る事ができず、私は1人で縁日に来ました。
ですが、周りを見ると家族連れや恋人達ばかり
私は1人でいる事が悲しくなり、鳥居の下でうつ向いていたところ、貴方が心配そうな顔で『どうしたの?大丈夫?迷子かな?』と、優しく声をかけてくれました。
とても嬉しかったです。
そして貴方は暫く隣で話を聞いてくれて、私に十字架の飾りを渡してくれました。
本当に嬉しかったです
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最後には『あの時の事を話そうと思っていたが、時間が遅くなると母に心配かけてしまうので話せなかった』と書いてあった
(···思い出した。子供の頃に縁日で射的の景品で十字架の飾りを取ったは良いが、自分には似合わないと思っていたところに、うつ向いていた女の子がいたから元気出してほしくて渡したんだった。そうか、あの時の女の子が彼女だったのか)
手紙を読み終えた俺は、あの時の女の子が彼女だったと初めて知るのであった。
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祭り囃子が鳴り響く境内を俺は1人歩く
射的を見つけて景品を取り、神社を後にする
俺の手には十字架の飾りが握られている
彼女にあげた十字架の飾りの色ちがいの青色の十字架だ
おわり