07 ベッドの様子
私はケイの世話をしながら、暇を見付けてはべーの所に顔を出した。
もしかしたら、遺されるミラロイドに別れの時間を作らせる為に、この家では廃棄ではなく、不活化による死を迎えさせるのかも知れない。
べーとは思い出話をしたり、思い出話に扮した問い詰めを受けたり、やり返したりした。
例えば、生まれ付き、本人の努力ではどうしようもない事がある。
「胸の大きさなんて、最たるもんでしょ?べーは性徴抑制型なんだし」
「自分があるからって、そんな事言わないでよ」
「あるって程じゃ」
「私よりあるでしょ?」
「え~?そんな事言ったら私だって、もっと背が欲しいんだけど?」
「それは私も欲しかった」
「そうよね。シンプロイドも性徴抑制型も、どうしても体は小さめになるからね。でも私よりべーの方が背が高い」
「トリプロイド達と比べたら、誤差よ」
べーの返しに、私は肩を竦めて見せる。
「自分はダブロイドなのに、シンプロイドの私と比べてたじゃない?それなのにトリプロイドは大きいのを認めるなんて」
「え?トリプロイド達はみんな、大きいじゃない?」
「大きいけどさ」
顔を蹙めた私を見て、べーが苦笑した。
「シイ先輩は何が言いたいの?」
「もしかして、べー?他のに作られたかった?」
「え?・・・そんな事、言っても仕方ないわ」
今度はべーが肩を竦める。
まあね。
「私がこの家に来た時の事、シイ先輩は覚えてる?」
べーが目を閉じたまま、質問してきた。
「え?そんな昔の事、覚えてないわよ」
「そうよね。シイ先輩はそうよね」
今のシンプロイド達は不老が前提なので、記憶力も強化されてる。だから長生きしても、昔の事も最近の事も、ちゃんと覚えてる。
でも私は偶然不老になっただけだから、そんな機能強化は受けてない。昔の事も最近の事も、良く忘れる。
「この家に来て直ぐに、坊っちゃんとシイ先輩のベッドの様子を見させられて、私には絶対無理って思ったわ」
「昔は良くそう言う事、坊っちゃんはやってたよね」
「あまりに私が怖がるから、坊っちゃんは私には手を出さなかったのよ」
「へ~」
「へ~って、シイ先輩。そんな軽いのだけ?意見でも感想でもないし」
「だってべーは性徴抑制型なんだから、坊っちゃんの相手しなくても普通でしょ?」
「それはまあ、そうなんだけど」
そうなんだけども何も、普通はそう。
確かに性徴抑制型なのに、夜の相手を強制される事もあるけど、それはミラロイドなら仕方ない。ミラロイドのそもそもの開発目的の一つだし、開発に投資する人達はそう言うニーズを狙ってたし。
まあそれなら性徴抑制はともかく、そう言う用途に使う子には、性欲抑制は付けないで上げて欲しいけど。
そしてべーは多分、性嫌悪教育をされたのだと思う。性欲抑制だけなら無関心になるだけだから。
もしそうなら、そりゃ坊っちゃんも手を出さないよ。嫌悪されちゃうもの。
胸の大きさを気にしてたのも、性嫌悪の所為かも。違うかな?逆かな?
「シイ先輩、アーは覚えてる?」
べーの声は、大分聞き取り難くなってる。
「うん」
「シイ先輩でも、さすがに忘れないか」
「さすがにね。アーって学究系だったよね?ベッドの様子も興味持って見てたよ。色々質問されたし」
「そうだったの?でもいくら興味あるからって、妊娠までしなくて良かったのに」
「妊娠させるのも大変だったけど、してからも大変だったよね」
「そうね」
アーはダブロイド同士で妊娠した。
理論的にはダブロイドでも出産が可能だし、そう言う実例もある。
けれどアーには無理だった。アーも胎児も死んでる。
そしてその原因が、アーが性徴抑制型だったからではないかって言われてた。性徴抑制型のダブロイドが出産出来た報告はない。って言うか、性徴抑制型にそんな事やらせる意味が分からない。
「あれ、アーが自分でやるって言い出したのよ」
「妊娠する事?そうだっけ?」
「シイ先輩は賛成してた?反応してた?」
「・・・忘れた」
「・・・そう」
「べーは?」
「私?私は・・・忘れたわ」
「自分も忘れてるのに、私に訊いたの?」
「良いじゃない。今訊いとかないと、訊きそびれるし」
確かに毎日、べーの最期が近付いて来ているのを感じる。
訊きたい事には答えるよ。忘れてなければ。
そんな中、坊っちゃんからやっと連絡が来た。
私宛のメッセージには、べーの事は「分かった」としか書いてなかった。
それよりもケイに対して、爆弾命令が書かれてた。
坊っちゃんからの命令は、ケイと男女の仲になれ、だ。
今なら直ぐに返信をもらえるかもと思って、坊っちゃんの真意を確かめるメッセージを送った。
そしたら、ケイはいずれ死ぬのだから、病状が多少悪化しても構わない、との返事が来た。
それよりは、病気で大きくなったケイの問題が、性徴を抑制していない男型と同じ様に機能するか、確かめろと命令された。
直ぐにケイの部屋に行って、メッセージを見せた。
また少し老けたケイは、眉間のシワが深い。
「シーは良ーの?」
「私はそれ用にも作られてるって言ったでしょ?」
「そーじゃなくて、俺が相手でも良ーのかって訊ーたんだよ」
「うん」
良いも何も、ケイに襲いかからない様に、毎日ガマンしてるくらいだし。
「ケイも、坊っちゃんの命令なら仕方ないよね?」
「いーや」
「え?仕方ないでしょ?」
「喜んで、シーの相手をさせてもらう」
「え?ホント?」
自分で声が弾むのが分かる。
「ああ。ずっとそー言ー事には興味がなかったんだけど、ここに来てからはたまに、シーとそーなる夢を見るんだ」
「え?ホント?」
ちょっと、声が湿ったかも?
「でも経験も知識もないから、夢でもどーにもならないんだけどね」
「大丈夫。そこは私に全部任せて」
「ふっ。そーだね。シーに任せるよ」
脱がしただけで、ケイの問題は臨戦態勢になってた。
下手に刺激をしたら今にも溢れそうだから、直ぐに体を合わせる。
大丈夫。私もずっと臨戦態勢だったから、少しも問題ないし。