06 そんな事
夜のケイの様子が気になって、ケイの部屋で寝泊まりする様になった。
やっぱり、あまり眠れてないみたい。数分から長いと1時間近く、唸ってる時がある。
そんな時はケイの背中や腰や脚を擦ったりしてみる。効く時もあるみたいだけど、私に気を遣って、効果がある様に演じてるだけかも知れない。
だけど、数時間、眠れる時もあるみたい。
その時は私もケイの傍で寝た。
そんなケイに付きっ切りの生活をしていたので、エーに声を掛けられるまで、べーの事は気付かなかった。
「え?べーが倒れた?」
「そうなの」
いつもは勝ち気なエーの声が少し震えてる。
「あぁ、べーも使用期限、とっくに過ぎてるもんね」
「そうだけど、最近急に食欲がなくなって、もしかして、病気なんじゃないかな?」
「ミラロイドは普通、病気にならない設計でしょ?」
「だって、ケイだって病気なんでしょ?」
「ケイはそうだけど、べーは単なる不活化だよ」
「そう思っててももしかしたら病気で、治療したら治るかも知れないじゃない」
「万が一病気だとしても、ミラロイド用のクスリも治療法もないでしょう?」
「なんで?なんでシイはそんなに平気なの?」
なんでって。
なんでエーはこんなに感情的なんだろ?普段から感情抑制が弱いタイプではあるけど。
でも、べーはダブロイドだし、今どきのシンプロイドと違って老化するし、使用限界があるのは当たり前なのに。
「エーだって今まで、不活化したダブロイドやトリプロイドを見た事あるでしょ?」
「そうだけど!でも!」
「分かったから。取り敢えずべーに会うよ。ご主人様や坊っちゃんには?」
「それは最初にすぐ、連絡を送った」
「うん。さすが、ベテラン」
「良いからサッサとべーのとこに行きなさいよ!」
「え?一緒に行かないの?」
「・・・ええ。私は後で行くから、先に行って」
「そう?分かった」
一旦ケイの部屋に戻って一声掛けてから、べーの所に行く。
べーはベッドで寝てた。
「べー?」
声を掛けると、薄らと目を開ける。
「シイ先輩?」
「倒れたんだって?」
「うん・・・不活化」
「もう歳だもんね」
「・・・そうね」
人間をモデルにしているから、ミラロイドも歳を取ると呆ける事がある。
呆けて所有者の不利益になる事を行ったり、急に攻撃的になって周囲の人間やミラロイドに怪我をさせる事があり得る。
それを防ぐ為に、ミラロイドは歳を取ると、体の生活性を減退させる設計になってる。
普通はこうなる前に廃棄されるけど、この家はその点、おおらかと言うか、緩いと言うか。
この家では廃棄になる事は滅多になく、不活化を進めて死亡させる事が多い。それは坊っちゃんの研究の為と言う訳では無く、私がこの家に来た大昔から、なんとなくそうなのだ。
「不活化のシグナルも出てるの?」
「うん・・・説明書通りに」
「そう。エーはべーが病気じゃないかって、心配してたよ?」
「エーには、不活化だから大丈夫だって、言ったんだけど」
「納得しなかったのね?」
「そうみたい」
ベッドに座って、べーの手を取る。
暴れる力が出ない様に、筋肉が分解され始めてるんだろう。べーの手は筋と血管の跡が見えて、シワも多くなってる気がする。
「何か欲しい物はある?」
「・・・坊っちゃんと連絡は取れたのかな?」
「エーは直ぐに連絡したって言ってたけどね」
「返事は来てないのね」
「多分。私もケイの事で連絡欲しいんだけど、坊っちゃんからもご主人様からもまだないから」
「・・・そう」
「何か伝える?」
「ううん。伝えたい事を思い付いたら、自分でメッセージ残すから」
「そう」
べーは普通だ。普通に不活化してる。
エーが変なのよね。
後は特に話す事もないし。
「ねえ?お風呂入る?手伝うよ?」
「・・・ううん」
「それじゃあ、体拭こうか?」
「イヤよ」
「え?イヤ?だってちょっと臭うよ?」
「イヤ」
べーの体内では老廃物がせっせと作り出されているんだろう。
でも、お風呂も体を拭くのもイヤ?きれい好きじゃなかった?
「最近、ケイの体を拭いてるから、隅々まで丁寧だし、手早いよ?」
「・・・もう」
「え?私、なんか、べーに怒られる様な事した?」
「怒ってもいるけど、それよりかなり呆れてるのよ」
「なんで?」
「私はダブロイドなのに、シンプロイドのシイ先輩より胸が小さいのよ?人間相手なら命令があれば仕方ないけど、いくら死ぬ間際だからって、同類には見られたくないわ」
「えー?そんな事?」
「はあ?シイ先輩にはどうせそんな事よね?」
なんか、凄くバカにされた。