03 これって何?
「シー」
「・・・ん・・・」
「シー?」
「う~ん?な~にぃ?」
「喉が渇いた」
「うん?あ!ゴメン!寝てた?」
「・・・多分」
「あ!喉が渇いたのね?水で良い?」
「任せる」
「ちょっと待ってね」
いつの間にかケイのベッド脇に座って、寝ちゃってたみたい。
「コップで飲める?」
「・・・分からない」
「あ、重力?手が上がらない?」
「・・・うん」
「吸い飲みは大丈夫?」
「・・・分からない」
「え?水分補給、点滴じゃないよね?聞いてないけど?」
「いや・・・経口摂取で良ー」
「え?ケーコーセッシュ?」
なんだか分かんないけど、どうしよう?
「ケーコー何とかは用意してないけど、これで飲んでみない?」
そう言って吸い飲みを見せてみる。
「・・・うん」
吸い飲みの口をケイの唇に当てた。
「少しずつ出すから」
そう言うとケイは小さく肯く。
ケイの喉が鳴った。飲めてるみたい。
クイッとケイの顎が小さく上がる。
「もう良いの?」
「うん。ありがと」
「うん。なにか食べる?」
「いや、今は良ー」
「手が上がらないって言ってたけど、喋るのは大丈夫?」
「大丈夫」
「飲んだり食べたりは?」
「大丈夫」
「そう。良かったわ。もう少しお喋りしても良い?また寝る?」
「お喋り?」
「お喋りする?」
「何を喋るんだ?」
「なにって、ケイの事とか教えてよ」
「・・・資料、見たんじゃないの?」
「見たわよ。でもどうせならあなたの口から聞きたいじゃない」
「・・・何故?」
「え?なぜってなにが?」
「資料に書いてあるのに」
「あなたがどんな設計でいつ作られて、どんな仕事をしてきたのかは資料に載ってるけど、それだけじゃあなたの事、分からないでしょ?」
「俺の事?」
「そう。例えば、一人称に俺を使ってるんだ、とかね?」
「あ、いや。申し訳ない」
「え?なにが?俺が?別に大丈夫よ?」
「いや、だって、女性に向けて使うと失礼に当たるんだろ?」
「え~?なにそれ?どこ情報?初めて聞いた」
「え?そーなのか?」
「この家には男型のミラロイドもいるけど、ご主人様や坊っちゃんがいないとこでは俺って言ってたりするよ?僕も私もいるけど」
オラやオイラは今はこの家にいないけど。
「・・・そーなのか」
「もしかして宇宙ではそうだったの?」
「いや、どーだろ?」
「どうだろう?女性や女型の前では俺って言わなかったんでしょ?」
「いや、女性には初めて会ったから」
「初めて?地球に下りるまで、人間の女性には会わなかったの?」
「あー」
「女型のミラロイドも?」
「あー。シーが初めて見る女性だ」
「え?・・・あなたを出迎えたミラロイド、見なかった?」
「あの二人?」
「多分、その二体。二体とも女型よ?」
「え?・・・男だと思ってた」
「そんな・・・本人達に言ったらダメよ?この家にいるダブロイドは性徴抑制型だから、男型に見えても女型に見えても、設計書を見てから判断してあげてね?」
「なんで本人に言ったらダメなんだ?」
「だって、胸がないこととか気にしてるから」
「性徴抑制型なら当たり前だろ?」
「そうだけど、ケイも性徴抑制型なんだから、気持ちが分かるんじゃないの?」
「気持ち?・・・どうだろう?」
「男型と女型じゃ違うのかな?」
「シーは性徴抑制型じゃないんだな?」
「まあね。それ用にも使う為に作られてるから」
「それ用?」
「性的にね」
「・・・そーか。それはそーか」
ケイの表情が少し暗くなる。
「ミラロイドだからね」
「・・・そーだな」
苦笑いだけれど笑ってるから、痛みが出て来た訳じゃないみたい。
「でも私は優秀だから、こうやって看病も出来るのよ?」
「ありがと。助かる」
「え?そこは、これくらい当たり前だって返してくれなくちゃ」
「え?どーして?」
「だってこんなの、ミラロイドなら少し勉強すれば出来るわよ?」
「そーなのか?もしかしてシーは汎用型?」
「汎用型ってほど汎用かどうかは分からないけど」
「その、性処理関連に特化してる訳ではないんだな?」
「ええ。それもこれもね。特に制限は付けられていないから、人間が出来る事は一通り出来るはず」
「そーなんだ」
「上手下手はあるけどね。でも長く生きてるから、下手でもそれなりに熟せるわよ?」
「そーか・・・ところで、返してくれなくちゃってどー言ー意味?」
「え?さっきの?ボケたんだからツッコんでよって事だけど?もう、言わせないでよ」
「ゴメン・・・でも、なんで?」
「なんでって・・・もしかしてケイ、普段あまりお喋りしないの?」
「あまりがどれくらいか分からない。でもこんなに話したのは今日が初めてだ」
「え?仕事中の遣り取りは?」
「指示が来るから受諾信号を返すだけで、音声は使わない」
「現場からの報告とかは?」
「ライブ映像を送るから、特に報告はしない」
「仕事が終わって同僚とかと喋ったりは?」
「終わって?余計な疲労をしない様に、仕事の休憩中は周りも俺も安静にしてたけど」
「休憩?仕事が終わったらどうなの?」
「仕事が終わる事はないけど・・・シーは?シーは仕事が終わるの?」
「その日の分の仕事がなくなれば、その日の仕事は終わりよ?」
「・・・地上は昼夜の区別があるからかな?」
「・・・休憩はどれくらいなの?」
「長いのは8時間。短いのは10分で、多いのは1時間だな」
「休日は?」
「ミラロイドに休日なんてないだろー?」
「え?あるでしょ?要るでしょ?買い物したりとか遊びに行ったりとか」
「遊び?」
「遊ばないの?もしかして遊びって分からない?」
「言葉は知ってるし、どんな遊びがあるのかも知識はあるけど、遊ぶ場所がなかったから」
「そっか。宇宙ステーションだもんね」
「噂では、人間専用のそー言ー場所はあったらしーけど、あくまでも噂だったな」
「地上にも人間専用はあるけどね。でもミラロイドも使える所の方が多いから。じゃあビデオゲームとかは?」
「実物は見た事ないけど、知ってる。でも消費して良ー電力量は厳しく制限されてるから」
「・・・宇宙ステーション、大変だね」
「うん?物心ついた時からそーだから、大変かどーかは俺には分からないけどね」
「・・・そっか」
「重力の方が、よっぽど大変」
私とケイを同じシンプロイドとされると困るかも。常識が違い過ぎる。
「少し話しただけで、資料じゃ分かんない事がいっぱい出て来るんだけど、やっぱりケイとたくさんお喋りしたいな」
「そーだね。俺も、シーともっと喋りたい」
「そうこなくちゃ」
「ねー、シー?」
「うん?」
「これって、楽しーって事?」
く~っ!
ケイに感じるこれは何?話に聞く母性愛?
私は母にはなれないし、相手は中年姿だけど?