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シンプロイド ~ 永遠の乙女がみつめる死と生  作者: 茶樺ん


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17/18

17 食べるわ

 少しお(なか)が出て来た。想定よりも遅いけど、赤ちゃんはちゃんと育ってるみたい。

 庭を散歩してても、一回りに時間が少し掛かる様になって来た。


 でも、私よりケイの方が歩くペースが遅くなって来てる。それに休み休み。時間は掛かってる。



 ケイの具合は悪化の一途(いっと)を辿ってる。

 一日毎に症状が変わり、良くなるかと思った翌日には、前々日より明らかに悪くなったりしていた。


 見た目も五十代に見える。実年数を考えると、渋くて良いなんて言えないレベルだ。



 散歩の途中でベンチに座って休んでいたケイが、立ち上がれなくなった。

 その場にケイを残して、男型のトリプロイドを連れて来て、ケイを部屋まで運んで貰った。


 抱き上げられたケイは、とても小さく見える。

 比較対象がトリプロイドだから、仕方ないのだけれど。



 次の日から、私の散歩にケイは同行しなかった。

 一緒に庭には出るけど、座って待ってる。

 振り向くと目が合うし、手を振ると振り返してくれる。



 ケイは起きていても、ベッドで過ごす事が多くなった。


 まだ歩けるのは歩けるので、排泄装置には頼らないでトイレを使える。

 でも、そのトイレの行き来を私は助けられない。


「もし俺が倒れた時に、シーを下敷きにでもしたら大変だろ?」


 ケイはそう言ってトリプロイドに付き添って貰ってる。直接手を借りてはないけど。



「ケイ?体洗うの、手伝おうか?」


 行き来に付き添いは付けてるけど、浴室にはケイ独りで入ってる。でも、だんだん入浴時間が長く掛かる様になって来てたので、心配だった。


「そのお腹で手伝って貰ったら、ハラハラしちゃうよ」

「まだそんなに出てないから大丈夫よ」

「ホントなら安定(あんてー)期ならもっと出てる筈だろ?」

「それは人間の場合だし」

「つまりシンプロイドのシーと俺の子は、今どー()ー状態か分からんと()ー事だよね?」

「それは、そうだけど、でも、私以外のミラロイドに、ケイの体を触らせるのはイヤよ?」

「そんな事()ーながら、トリプロイドの彼に運ばせたじゃないか」


 あ?やっぱりお姫様抱っこを怒ってたのかな?根に持ってる?

 でも。


「男型なら良いけど、女型はイヤなの。シンプロイドの男型って今はケイしかいないじゃない」

「それならダブロイドでもトリプロイドでも()ーだろう?」

「え?ケイは大丈夫なの?」

「何が?」

「裸を見られるの」

「え?なんで?男同士(どーし)だろう?大丈夫(だいじょーぶ)だけど?」


 やっぱり性徴抑制型だからベーは、私に裸を見せなかった訳じゃないのかな?

 そう言えばケイは同じ性徴抑制型なのに、ベー達が胸が無い事を気にしている事が、理解できないみたいだったっけ。


「じゃあ、男型のダブロイドの誰かに頼んでみるよ。トリプロイドより力加減上手いと思うし」

「あ、いや、まだ()ーよ。まだ自分で出来るから」

「そう?」


 う~ん。本当はやっぱり見られるのがイヤなのかな?



 夜中にケイの唸り声が聞こえた。

 頑張って声を抑えてるみたいだから、知らんぷりをした方が良いんだろうけど。

 寝返りを打って、ケイと向かい合う。


「ごめん、シー。起こしたか」

「ううん。大丈夫」


 ケイの髪を梳く。

 少し指が絡む。もしかしたら良く洗えてないのかな?

 そう言えば宇宙では調整槽しかないって言ってた。シャワーだと後片付けが大変だって話で、湯舟だと水が浮いちゃうだろうって。

 調整槽、使える様に手配しよう。


 黙って髪を梳き続けてたら、暗くて表情は良く分からないけど、ケイの呼吸が規則的になって来た。

 眠ったのかな?


「シー」

「うん?な~に?」


 まだ起きてた。


「俺が死んだら」

「縁起でもない事は言わないの」


 そうケイの言葉を遮って、ケイの手を取って私のお腹に当てる。


「ねえ?この子が生まれたら、可愛がってくれるんでしょ?」

「・・・そーだな」

「それで私の体調が安定したら、いっぱいするんでしょ?」

「そーだったな」


 表情は良く見えないけど、ケイの声は笑った気がする。


「でもね、シー」

「・・・うん?」

「でも間違ってでももし万が一、この子が生まれる前に俺が死んだら・・・」


 ケイの言葉の語尾が、震えた気がした。


「・・・なに?間違って、死んだら?」

「・・・俺を食べてくれる?」


 ケイの後頭部に手を伸ばして、顔を引き寄せ、そっと口付けた。


「ええ。食べるわ」

「俺、体が腫瘍(しゅよー)だらけで、食べれるとこがないかも知れないけど」

「腫瘍も食べるわよ」

「え?それはダメだろ?」

「なんで?」

「だって病気(びょーき)だし」

「なんで?私とケイを会わせてくれた、奇蹟でもあるし」

「いや、でも」

「ダメ。全部食べる。ケイは一欠片でも誰にも食べさせないし、処理場にも何も渡さない。誰にもあげない。ケイは全部、私のものだから」

「シー」

「私が全部食べるから、安心して」

「・・・あー、分かったよ。頼むね」

「ええ、任せて」


 ケイは鼻をクシュクシュ擦り付けて、ケイからもそっと口付けてくれた。


 ケイの胸元に顔を付けると、良い匂いがする。やっぱりフェロモンってヤツなのかな?

 それで刺激されるのが、食欲なのか性欲なのかは分かんないけど。


「でも、ケイは忌避感を持ってるかと思ってたわ」

「忌避感?・・・食べられる事に?」

「食べられる事にも、食べる事にも」

「・・・そーだね」


 ケイが髪を撫でてくれる。


「でも、この子が生まれるまでは、俺以外、誰も食べないで欲しーな」

「ケイ以外?ケイだけ?」

「あー。食べるのは俺だけにして欲しー。シーの仕事だから難しーのは分かってるけど」

「私の仕事は解体だから、食べなくても大丈夫だけど?」

「あー、そーか。勘違いしてたな。そーか。良かった」

「良かったなら良かったけど、でもなんで?ケイがイヤならもちろんそうするけど、なんで他のミラロイドは食べたらダメなの?」

「だって」


 ケイはお腹に手を当てた。


「体の細胞(さいぼー)は次々に新しくなるけれど、神経(しんけー)細胞(さいぼー)って生まれてからずっと変わらないらしーんだ」

「そうなの?」

「あー。だからシーが俺を食べたら、俺のアミノ酸がこの子にも使われるだろ?それが神経(しんけー)細胞(さいぼー)になら、ずっとこの子と一緒にシーの傍に残るかと思って」


 顔を上げて私から、ケイの鼻に鼻を付けた。


「そうなのね。分かったわ。約束する。この子の妊娠中には、ケイ以外食べない」

「あー。ありがとー、シー」

「でも、生まれたこの子を私と一緒に可愛がって、私といっぱいしてケイのガンを治しちゃうのが、私達三体に取って一番良いって私は思う」


 ケイの表情は見えないけれど、肯いた様に感じる。


「・・・そーだね」


 口付けされた。


「・・・俺も、それが()ーな」

「うん。そうしよう」


 口付けを返すと、そのまま頭に手を回されて吸われて、だから吸い返して。

 ・・・お互い、我慢してた筈なんだけど。


 久し振りの舌を絡める感触に、芯が痺れた。

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