15 マッサージ
その変化は最初は小さかったけれど、直ぐに現れた。
一緒に寝ていて、ケイが小さく唸る。
その声は日中にも上がる様になり、ケイの時間を少しずつ奪い始めた。
ケイがまた、体の痛みに苦しみ出してしまった。
前みたいに体を擦ろうとすると、ケイに拒否される。
「俺は大丈夫だから、シーは無理しないでくれ」
「無理はしてないよ。擦るくらい平気だよ?」
「でも俺の体を擦ろーとする時、お腹への負担が、あまり良くない掛かり方の気がする」
そんな事ない筈なのに、そんな事を言われると、なんだか気になっちゃう。
「俺にシーをマッサージさせてよ」
そう言って私を横にならせて、ケイは腰やふくらはぎなんかを揉んでくれる。
「マッサージもやり過ぎると、妊婦には良くないらしーんだ。だからやり過ぎるなって言ーから、ちょっと物足りないかも知れないけど」
「ううん。すっごく気持ち良いよ」
「そうか。やっぱり女性は大変だよな。ありがとな」
ケイはこの頃良く、良く分からないタイミングでありがとうと言う。
最初はいちいちどうしたのか訊いてたけど、あんまり意識しないで口にしてるみたい。
だから最近は、素直に受け取る事にしてる。
「どういたしまして。私の方こそ、ありがとね」
「あー」
お礼返しを言うと、こんな風にケイは嬉しそうに微笑んでくれる。
不思議な事に、私をマッサージしてる時は、あまり痛みがないらしい。自分が痛い時は私のマッサージどこじゃないから、当たり前なのかも知れないけど。
「俺、性欲抑制型の筈だろ?」
「設計書ではそうよね」
「でも、シーとエッチな事するの好きだろ?」
「それは私のがうつったのかもよ?」
「それはそれで、シーにうつされたんなら嬉しーけどさ。でも今は出来ないじゃないか?」
「私が妊娠してるからね」
「うん。で、その代わりにこーやって、シーの体に触ってると、エッチな気持ちが湧き上がるけど、スーッと重力に逆らって消えてく感じなんだよな。分かる?」
「え~?分かんない。なに?ケイ?独りで気持ち良くなって、独りで満足してんの?」
「独りじゃないだろ?シーとじゃなきゃ、満足出来ないって。シーだって気持ち良ーって今、言ってたじゃないか?」
「気持ち良さの種類が違うけどね」
「でも、シーが気持ち良ーから、俺も気持ち良ーんだと思ーんだよな」
「そうなんだ」
「だからシー?俺の為にも気持ちよがってくれよ?」
「・・・うん。分かった」
ケイの感覚は良く分からないけど、私はマッサージされて気持ち良いし、ケイも満足ならそれで良いや。
「そう言えばケイ?ケイって触覚は人間平均の5分の1なんでしょ?でも、マッサージの力加減、上手よね?」
「5分の1も設計上だからな」
「・・・当てにならないか」
「少なくとも、俺に関しては」
設計書上なら私とケイで、妊娠する筈がないしね。
その事では、もう一つ仮説を見付けた。それは、私の想像妊娠って言うヤツかも知れないって事。
ミラロイド用の検査薬はなくても、超音波検査とかすれば、私のお腹に赤ちゃんがいるかどうかは分かる筈。それなら人間用がミラロイドにも使える筈だから、医者のディイを頼れば手配出来ると思う。
でも、本当に妊娠していたと分かった時、誰にどんな扱いをされるか分からない。ご主人様か坊っちゃんでなければ、私を堕胎させたりは出来ない筈だけど、暴力を振られたらどうなるか分からない。そうじゃなくても、ケイと離れ離れにされるかも知れない。
だからディイには伝えてない。
たとえこれが想像妊娠だったとしても、このお腹に何も宿ってないとしても構わないから、私は今の生活を続けるし、その為には私の妊娠を外部には漏らさない様にしてる。
それはこの家のミラロイドにも頼んである。ご主人様か坊っちゃんの返事が来るまでは、外に漏らさない様にって。
そう考えると妊娠したのが、ご主人様も坊っちゃんもいない時で良かった。
二人の知り合いが最古のミラロイドを試したいって、たまに相手をさせられる事があるから、今それをさせられたら、流産しちゃうかも知れないもの。妊娠してるって分かったらそんな事はさせられないかも知れないけど、逆に妊娠してるレアな状況を味わいたいなんて人間もいるから。
私の妊娠、思ったより危険があるわよね。
ケイが私のお腹にそっと手を置いた。
その上に私も手を重ねる。
早く、赤ちゃんが動くのを感じる様にならないかな。




