12 死の始末
共喰いに言及しています
それは人間を相手にしていても、結局自分と人間は違う存在だからかも知れない。
動物にあるフェロモンと言うやつ、ミラロイドにもあるのかも。でもそれは人間とは違うもので、だから私は人間には性的にときめかないのかも。それはつまり、人間もミラロイドには、性的にはときめかないって事だけど。
そう言えば、ミラロイドを性欲処理に使うのは、自慰と一緒だって話があったな。
それと、人間の夫婦が男型と女型のミラロイドを買うのが流行った時期もあった。あれは二人と二体で一緒に寝るんだって、当のミラロイドから聞いた事がある。きっと人間同士でフェロモンを出し合って、道具としてミラロイドを使うんだ。
そう考えると私は、ケイのフェロモンの虜にされてるのかな?それはちょっと、なんか嬉しい?
そんな事を考えていると、ケイにそっと手を押さえられた。
「ベーはどーだった?」
濃密な二体だけの時間に、他の女型の名前を出すなんて、非道くない?それもわざわざ私の手を押さえて。
「どうも何も、死んでたわよ」
答え方がかなり冷たくなる。
「シーは何か仕事があったんじゃないのか?」
「それなんだけど、ベーの部屋にエーが立て籠もって、部屋のドアが開けられないのよ」
「そーか。それで?」
「解体が私の仕事だから、ベーの遺体がないと仕事にならないの」
「え?解体?ベーを解体するのか?」
「ええ」
「処理場に送るのではなく?」
「そうね」
今のミラロイド達はこう言うのに忌避を感じるけど、ケイもなのか・・・そりゃそうか。見た目は三十代後半だけど、ケイは作られてまだ二十年だものね。いや、考えてみたら、四十代のミラロイドでも同じだわ。
私が教育された頃は、ミラロイドは生き物でさえなかった。単なる工業製品だ。
動物愛護法の対象に該当しないのは今もだけど、所有者がミラロイドを怪我させようが死なせようが、いっさい何も問題がなかった。それどころか、性犯罪や傷害を繰り返す人間に、その衝動を叶えて満足させる事で犯罪を起こさせない為に、ミラロイドを与えてみる取り組みさえあった。
私が食べた事のあるミラロイド用の食事の、野菜はミラロイドと同じアミノ酸を使って作った物だ。深宇宙をミラロイドに探索させる計画の一部として、搭乗員のミラロイドの食事の為に開発された野菜だった。
そして肉はミラロイドの肉が使われてた。
ミラロイドを閉じ込めて戦わせ、勝った方が負けた方の肉を食べて生き残る。そんな動画や賭けに人気があった頃の話だ。
今もミラロイドには生物としての法的保護はないけど、故意に何体も殺すと、社会から批判を受ける時代になった。
その所為か最近のミラロイドには、余程の事情がない限りはミラロイドを殺してはいけない、との教育が施されている。
そう教わって育ったミラロイドは、ミラロイドの体に刃を入れる事を嫌がる。相手が死んでいてもだ。その傾向は、年々強くなっている気がする。
ましてや共喰いなんて、ね。
私がこの家で先輩と呼ばれるのは、他のミラロイドと常識が違う、古いタイプのミラロイドだと言う意味が込められているのよね。
「どうせ処理場に持って行くなら、何もシーが解体しなくても良ーんじゃないか?」
「そうね。でもこれ、私がここに来て直ぐの時に、当時のご主人様が出した命令なの」
「え?それってかなり前からって事か?」
「うん」
「その命令、取り消されてないのか?」
「うん。新しく主人になった人達も、私に続けさせたわ」
「なんでなんだ?」
それはこっちが知っておきたいのだけど。
「多分、普段は一緒にいる私の、血塗れになった姿を見る事に、非日常を味わえるから、かな?」
確かいつか誰かがそんな事を言っていた様な気がする。
「シーはイヤじゃないのか?」
嫌だとしても、ミラロイドは人間の命令には逆らえない。
「最初は嫌だったわ。そう言う映像は見た事があったけど、実際にやってみたら、手触りとか臭いとか、最初はとても驚いた。でも、命じられたのだから、きちんと熟さないと」
「そんなのって・・・」
「私のロットって特徴があまり無くて、どうしたらご主人様に気に入って貰えるか、みんな真剣に考えていたわ。でもその中で私は、自分だけの仕事を与えられたの。だから、何があってもこの仕事は手放さないぞって。それに、嫌だとかって言えるのは、特徴のある設計のミラロイドだけだと思うわ」
ケイが私を強く抱いた。
あれ?もしかして、可哀想アピールしちゃった?話す順番を間違えたかな?まあ良いや。
ケイの胸を押して、少し体を離して。
「それに解体の特典もあるのよ」
「特典?」
「ええ。解体したミラロイドの肉が貰えるの」
「え?肉を貰う?」
「そう。最近はみんな食べないから、私一人では中々食べきれない量なの」
「え?食べるって、ミラロイドの肉を?」
「そうよ。アミノ酸タブレットを振り掛けたご飯より、全然美味しいわ。ベーを解体したら、ケイも一緒に食べてみる?」
私が言い終わるか終わらないかの内に、ケイは私をもう一度強く抱き締めた。




