01 シンプロイドのシイ
性的な表現と堕胎への言及、共喰いがあって多少の狂気を孕みますので、R15を指定しています。
明け方まで坊っちゃんの相手をさせられた。
坊っちゃんは時差ボケ対策の為に、飛行機の中で寝て行くらしい。その為の徹夜みたい。
そのお相手に何故か私が選ばれた。ここしばらくは、坊っちゃんのお相手を務めてなかったのに。
昼近くになって食堂に顔を出したら、うるさいのがいた。
「あら?お姫様は今頃、お目覚めかしら?随分と良いご身分よね?」
「そんな事言わないのよ、エー。シイ先輩、昨夜は坊っちゃんのお相手をしてたんだから」
「おはよう、べー、エー」
「おはよう、シイ先輩」
「ちっとも早くないけどね。その坊っちゃんは、もうとっくに出掛けたわよ?」
エーは食べ終わってるけど、ベーのトレイにはまだ結構残ってる。
いつも一緒に行動している2体が、今日は別々だったのかな?珍しい。
「シイ先輩。昨夜は遅かったの?」
「起きてこないから、ようやく先輩の寿命が尽きたかと思ったわ」
「まだまだ生きるみたいよ。あなた達は?こんな時間に食堂なんてどうしたの?」
「先輩と違って寝坊じゃないわよ?」
「新入りの受け入れがあるから、お昼ご飯を早目に済ますのよ」
「へ~」
「へ~ってシイ先輩?先輩が面倒見るんでしょ?」
「え?私?」
「やだ、聞いてないの?」
「だって新入りは、シイ先輩と同じシンプロイドよ?」
「え?なんで今更?新しくシンプロイドを買ったの?」
「本当に知らないの?」
「今度の新入りは死ぬらしいわよ?」
「死ぬ?シンプロイドなのに?」
「シンプロイドなのに」
「死ぬシンプロイドをいまどき作ったの?」
「そんな訳ないじゃない。宇宙線浴びたら、老化する様になったそうよ」
「宇宙線?死んじゃうシンプロイドをわざわざ、宇宙から地球に下ろしたの?」
「知らないわよ」
「そうなんじゃないの?坊っちゃんのコレクションだろうから」
「コレクションて言ったって、死んじゃうのに?」
「死んだら標本にでもするんじゃないの?」
「ちょっと止めてよ。まだ食べてる最中なのに」
「でも、100年振りとかのシンプロイドの死体だもの」
「止めてったら。食べれなくなるじゃない」
そう言ってベーはフォークを置く。
「私達も事故とかでは死んでるから、珍しくはないはずよ?私も同ロットはもういないし」
「それもそうか。坊っちゃんの考える事は分かんないわ」
「昨夜、坊っちゃんは何か言って無かったの?」
「そう言う会話はなかったから」
「そう」
「ふ~ん」
2体との話が途切れたので、食事を取りに行く。
メニューはいつもの人間用の食事と、私達ミラロイド向けのアミノ酸タブレット。
ここで出る人間用の食事は、人間にとっても不味いらしい。でも人間に美味しい料理でも、ミラロイドには美味しくないから。と言うか、美味しさを知ってるミラロイドって、まずいないから。
でも、死ぬシンプロイドか。
もしかしたらそのシンプロイドは、美味しさを感じたり?そんな事ないか。
ミラロイドは、シンプロイド、ダブロイド、トリプロイドが作られるけれど、不老はシンプロイドでしか実現出来てない。
シンプロイドが不老になったのは偶然で、その原因は分かってない。
私はその最初の、偶然不老になったロットの1体。
私のロットが不老だと気付く前に、破棄された個体もたくさんあるし、気付いてからも不死かどうか確かめる実験に使われて死んだり、事故で死んだりしてるから、いつの間にか私のロットは私だけになった。
つまり私は、現存最古のミラロイド。
私と同じ設計の遺伝子で作られたシンプロイド達はみんな不老になったし、設計をアレンジした新型でも不老になった子達もいる。今は量産されるシンプロイドは不老ばかり。
シンプロイドは半数体だから染色体が半分しかなくて、ダブロイドはシンプロイドの2倍ある二倍体。トリプロイドは3倍の三倍体。
それなので、不老のシンプロイドの染色体を二つ一組にしてダブロイドを作れば不老になりそうだけど、なぜかならない。トリプロイドもならない。滅多に作らないカドラプロイドでも試したけど、ならなかったそうだ。
ミラロイドは人間の遺伝子をモデルにして、染色体のらせんを逆向きにしてる。
それなので、人間とミラロイドの間には子供が出来ない。染色体が逆向きの人工生命なら、ミラロイドに限らず、オリジナルとの間に子孫は作れないけどね。
私達ミラロイドの仕事、あるいは存在理由だけど、人間の性欲を満たすだけじゃない。
トリプロイドは体が大きくなるし、力も強いので、護衛や消防士や兵士などに使われる。
ミラロイドを使ったギャンブルにも、普通使われるのはトリプロイド。ドーピングし放題、と言うか、設計時点から色々盛り込んであるから、とても人型と思えない様なトリプロイドもいるそうだ。
不老のシンプロイドが作られる様になってからは、それまでロボット化されていたいわゆる3K仕事の一部に、シンプロイドが使われる様になった。
事故で死ぬ事はあるけど、なにしろ故障しないし、ある程度の怪我なら自然治癒するし、古くならない。電気は食わないから配線不要。食事は食べるけど。
後は専門知識が必要な職種。今のシンプロイドは死なないから、経験が溜め続けられる。医師とか弁護士とかにはAIも使われるけど、CGやロボットに表情を作らせるよりも、シンプロイドに相手をさせた方が、どうしても人間のウケは良い。
ただ、ダブロイドは他の使い途があまりない。
体のサイズ感的には人間の代替には向くけど、それこそCGとかで足りる事が多いし、老けて死ぬ。サイズに目を瞑って、ダブロイドより小柄なシンプロイドを使う事も多い。
強いて上げると、シンプロイドもトリプロイドも子供を作れないけど、染色体数の合うダブロイド同士なら子供が作れる。
でも妊娠したら出産まで、本来の仕事を行わせられないから、妊娠させる持ち主はいない。それに生まれるのは設計書のないダブロイドになるから、どんな性能なのか分からない。生まれた後も育成しなくちゃだから、ちゃんと教育済みのを買って来た方が安上がり。物好きなこの家の坊っちゃんも、一度しか妊娠させなかった。
それでも物好きな坊っちゃんは、ダブロイドを何体か持ってる。ちゃんとダブロイド1体1体それぞれ設計が違っているのは、みんな坊っちゃんのコレクションだからだ。その上全員が、ダブロイドには珍しい性徴抑制型。さっきの2体も、女型だけれど胸はささやかで、性欲もないらしい。
この家の今のご主人様は女性で、遺伝子が優秀なので、卵子を売って収入を得てる。事業をしたり投資したりもしてるけど、基本は卵子売買。
若い頃はご主人様も自分で出産してた。それでご主人様より優秀な遺伝子を持つ子供達を何人も産んで、その子達は独り立ちしてる。みんなご主人様と同じ様に、優秀な遺伝子を売り物にしてる。
で、その中でなぜか坊っちゃんだけは、遺伝子が下位ランク。優秀な遺伝子同士を掛け合わせても、稀にこう言う事があるらしい。
それなので坊っちゃんだけ、この家に残って暮らしてる。
このままだと、この家は坊っちゃんが引き継ぐ事になりそう。
でも、遺伝子が下位ランクの坊っちゃんとの子供を産んでも良いなんて言う、奇特な女性はなかなかいない。だから坊っちゃんには後継ぎが出来ない。卵子を買って代理母に産ませれば良いんだけど、坊っちゃんは恋愛での出産に拘ってるから、望みがない。
つまり、やがてこの家には人間がいなくなる。
その時も私は生きてるだろうから、この家と一緒にちゃんと誰かに相続して貰わなくちゃならない。
そうでないと廃棄処分にされて、最古のミラロイドと言う文化的価値のある私が、消滅しちゃうもの。