虫
行く宛てもなく歩いた先で、辿り着いた公園のベンチに腰を下ろした。
手に持っていたコンビニ袋から、何時間前に買ったのか分からないビールを取りだした
ぬるくなったビールの栓を開けると、乾いた音が一瞬だけ静寂に響く。
音が止む前に、開いた口からビールを勢いよく体に流し込んだ
口に含んだ途端、炭酸が味覚を刺激する
飲み込んだ瞬間だけ乾きが潤って、疲れが浄化される様な錯覚に陥る
こんな真夜中に公園に居るのは自分くらいで、公園さえも寝静まる程の暗闇が辺りを包んでいた
そんな中、唯一優しい光を放つ目の前の街灯に自然と目がいく
街灯には、数え切れない程の虫が集っていた。
光に群がる虫を見て、自分みたいだと思う。
たとえそれがただの人工照明だとしても、
虫にとってはきっと違うものに見えているんだろうか。
何度も何度も、光に向かって飛んで
ぶつかってはまた飛び続けて
そこには何も無いのに。
ただの偽物の光なのに。
分かっていないのか、
分かってもなお飛び続けているのか
よく見ると街灯の周りには
飛び続ける虫と、
その死骸が無数に存在していた。
死骸の上を、虫は飛んでいる
それでも尚、街灯は光を放ち続ける
明日の朝になれば、飛んでいる虫はどうなるんだろうか
明日の朝になっても死ねなかったら、明日の今はどうしているのか
無意味な時間と行動だけを繰り返し、
いつかは力尽きて死んでいく
手に持つビールが、やけに重い。
街灯から目を逸らすように、冷めきったビールを一気に流し込んだ。
反動で酔いが回り、頭が真っ白になっていく。
霞んでいく視界の片隅には、街灯の光だけが映っていた。