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コノ国ハ残酷ダッタ

「俺、、、。今日、死んじまうのかぁ、、、。」

「もう二度と、、家には、戻らないのかぁ、、。」

「、、、もう一度、、、()()()に、、会いたかったな。」


片道分のガソリンだけ積まれた戦闘機のコックピットに乗り、窓から顔を出して風を浴びている男は、あと数十分後には死ぬ人とは思えないほど、冷静であった。


彼は本来の航路には組み込まれていない、故郷の上空に寄り道をすると、窓から顔を出して、故郷を懐かしそうに見下ろしている。


彼の母が送ってきた、当時は高級品の団子には、母が団子を握った時の指跡が生生しく残っていた。


彼は、それを手にすると、一口、口に含んだだけで、故郷の台地へ、その団子を窓の外へ放り投げた。


「かあちゃんの団子まで、あの残酷な戦場には持って行けないよな、。」


そう言い放つと、彼は故郷を後にし、後ろ髪を引かれる思いで敵地へ向かって、ヨロヨロ飛んでいった。




この男が属する蓬莱(ホウライ)国は、パティシップ国と戦争状態だった。


はじめは優勢だった蓬莱国も、長期戦になってくると、資源のより豊かなパティシップ国に押され、現在は、もはや、戦勝する希望の光も見えず、国は、最終手段に乗り移っていた。


それが、この特攻作戦。


兵士が戦闘機に乗ったまま、敵艦隊に体当りする作戦。


無論、これは、兵士の死亡が前提だ。


この男は、特攻作戦を命じられた若き兵士だった。


齢18にして、国のために、命を捧げることを命じられた彼。

勝てる希望が、もう、蓬莱国にはないことを知らず、上官に、自分が死ねば我が国は勝てると騙されていた、不幸な青年だった。



「ああ。あそこに、敵艦隊が、、見えてきたな、、。

 あれに体当りすれば、国を、、王を、、救えるんだよな、、。」


数十分間飛び続けた彼の目の前に広がっていたのは、無数の敵艦隊。


それも、自分が乗っているオンボロと比べると、格段に精巧で最新式の造りだった。


敵艦隊、10機以上。


対して彼は、一人。


「クソっ。早く、激突しないと、撃ち落とされる!」


咄嗟にそう悟った青年兵は、的を一機に絞り、意を決して敵艦隊に向かって一直線に素早く降下していった。


このときの彼は、死に対する恐怖も、故郷への未練も覆い隠してしまうほどの気迫と緊迫感を覚えていた。


「国王万歳!蓬莱国万歳!アァァ"!!!」


勿論、敵も攻撃の手を緩めることはない。敵の放った弾道が、彼の航空機を貫き、彼の腕にめり込んだ。


迸る血に目もくれず、彼は、操縦桿をしっかりと握りしめ続けた。


「万歳!万歳!バンザァァイ!!!」


「どうか、俺が転生するときには、蓬莱国が平和な国に、、なっていてほしい」


そんな彼の最後の言葉を聞くものは誰もいなかった。


無数の弾丸を浴びた男の航空機は、無惨にも、敵艦隊にぶち当たる前に撃ち落とされ、、煙を出しながら、海に、深く、深く、沈んでいった。







ーそれから15年後、4月




俺は、日原佐助、15歳!

自称、イケメンイケイケボーイ。絶賛彼女募集中!


俺の住む国は、戦争で負けて以来、酷く貧しくなっちゃったらしいんだ。

小さな島一つを残して、他の領土はすべて戦勝国に分け与えられたって、母ちゃんが言っていた。それに、人口は領土に対して多いもんだから、常に食糧不足なわけ。この島は、資源も乏しいし、技術水準も戦争時のまんまだから、経済はずっと右肘下がり。あれ?肩だっけ?まあ、どっちでもいーよね。


俺の家も、平均的な貧しい家庭で、すすけたバラック小屋に母ちゃんと二人暮らしをしている。

俺は馬鹿だから、政治とか経済とかの難しい話はよく分からないけど、貧しい中でも母ちゃんとの慎ましい毎日と、友達との交じり合いは楽しいから、ひもじいことがあっても、不思議と苦痛は感じていないんだ。


で、今日は、4月11日。

俺の、高校入学の日!

かあちゃんは、俺の学費を稼いでくれていたみたいで、高校にも行かせてあげられると言ってくれた。

だけど、所詮俺は中学を卒業したばっかりで、思春期真っ只中。母ちゃんに素直になれるほど、俺は成長していない。


「佐助!いつまでトイレでチンタラしてんの?!学校遅れるでしょーがっ!」

「8時の電車に乗れば間に合う!」

毎日の口喧嘩が今日も開幕する。母ちゃんになにか怒られれば、俺の小さい脳みそをフル回転させて言い訳を考えるのが、いつもの日課なんだ。


「まったく!そんなに時間かけて、一体何を出してんの?!」

「トイレでゆっくりしたっていいだろ!学校のトイレの場所分からなくて漏れそうになったら困るし!」

「あー。そういやあんた、中1のとき、その前科があったわね..。」

母ちゃんは、ため息を漏らすようにしてそう返した。


すいませんねぇ!だらしない一人息子で!


俺は、母ちゃんの言葉に屈服したように、慌ててトイレを出た。そして、急いで通学リュックを肩に背負い、母ちゃんを横目に玄関までダッシュして、一番綺麗なスニーカーを、かかとを潰したまま履いて外に出た。


「ちょっと待って佐助!」

母ちゃんは、俺を外まで追いかけて、呼び止めた。

「今急いでんだけど!つーか、母ちゃんが急げってせかしたんだろ?!」

俺は背中を向けたまま乱暴に返事をした。

「これ!持っていきな!」

「何を..?」

面倒くさそうに後ろを振り返ると、母ちゃんの手には、木箱に入った紅白饅頭が乗っていた。

「饅頭なんて、、そんな高級品...。」

「今日は高校入学のめでたい日でしょ?高価だけどねぇ、母さん饅頭くらいは作ってやれるんだよ。いいから、持ってきな?」

「...別に、いいよそんなもん。高校に行ってまで母ちゃんの手作り持っていくとか恥ずかしいよ。」


俺は母ちゃんの差し出す饅頭を振り払って家を後にしようとした。


その時だった。



保安隊に見つかっちまったのは。


保安隊とは、この国の兵団だ。

規則、法を破った者は厳しく取り締まる異能集団。

生身の人間が戦ったところで勝てる相手ではない。


「おい!そこの女ァ!何を手にしている?!」

保安隊の隊員は、ドスの効いた声で母ちゃんを威嚇するように口を開いた。



「ま、饅頭です...。」

母ちゃんは、消え入りそうな声で、そう、答えた。

「饅頭だと?贅沢品禁止の法令が出ているだろ!」

「...すいません。今日は息子の入学日なんです!」

「アァ?そんな言い訳が俺達に通用するとでも思ったか?」

隊員はそこまで言い終えると、無理やり連行しようと、母ちゃんの首根っこを粗暴に掴んだ。

「ギャァア!すいません!すいません!」

普段威勢のいい母ちゃんが悲鳴をあげているのを、俺は初めて聞いた。

俺が外に出たせいで、母ちゃんの饅頭が保安隊に見つかった..?

そもそも饅頭を作ってくれたのは、俺のためだ。

じゃあ、俺のせいで母ちゃんが、連行されちまうのか?


その瞬間、俺は、全身に電撃が走ったように痺れを感じた。


そして、次の瞬間には、俺は隊員目掛けて殴りかかっていた。


「グハッ!」


俺の拳は隊員の鼻をへし折り、隊員をぶっ飛ばした。


...あれ?

...俺、体力テストCの運動神経ふつーの男だぞ?

...火事場の馬鹿力とか言っても、手に痛みもなく、俺よりゴツい人間をぶっ飛ばせるか?


「佐助!?大丈夫!?身体、どうしたの!?」

母ちゃんの心配する声が聞こえる。

身体? 何言ってるんだ?

俺は恐る恐る自分の手のひらを見てみる。


「な、なんじゃこりゃァァ!!」

俺は、驚きのあまり奇声を発した。なぜなら、俺の手のひらどころか、身体中が、鉄と化していたからだ。


身体中がガッチガチに硬い。それに光沢がかっている。


「...おい。お前、異能持ち、か..?」

鼻血を出しながら地面に倒れた隊員は、やっとのことで起き上がると、怒りで震えた声で俺に尋ねた。


「異能...?もしかして、これが、異能...?」

「異能持ちを隠していることは重大な法違反だということは承知か?」

「っ!!違うんです!これは、私も初めて見るもんで、異能が発動したのも始めてで!」

母ちゃんは、必死に弁解している。


「それに、お前の息子は隊員に向かって暴行をはたらいた。」

すると、隊員は、今度は俺の方を振り向いて再び尋ねた。


「この女の罪が、どんな刑に値するか分かるか、野郎?」


クソっ!法律とか、俺が分かるわけないじゃねーか!

俺が黙っていると、隊員は、ニヤッと口角を上げたかと思うと、口を開いてこう答えた。

「死刑だ。」

「し、、けい、?」

「ウッ、ウッ、どうか、見逃してください!」

俺が状況を読み込めずに固まっていると、隊員は、崩れ落ちた母ちゃんの胸ぐらをつかんで、もう片手で、母ちゃんの首を握りしめた。


「な、何をする気だ!!母ちゃんは関係ねぇ!殺すなら俺を殺せ!!」

「残念だが、お前には、保安隊に入ってもらわないといけないから殺せないんだな。」

「佐助!やめなさい!」

「アァァァァ!」

俺は隊員目掛けて一目散に駆け出した。

「佐助。あんたは悪くない。この国に仕組みがこうさせているだけ。」

「何いってんだよ母ちゃん!おいお前!母ちゃんからそのきたない手を離せ!」

「佐助。あんたは人を助ける力を持ってる。私の名付け方は、間違ってなかった。」

「母ちゃん、もう喋んないでくれ!また家で話せばいいだろ!」

「この国を、どうか、助けて、平和な国にしt」

母ちゃんが話し終える直前、隊員は手から鋭い爪を生やした。そして、母ちゃんの喉元を、ザックリと、引き裂いた。

「....え?」

あまりにも一瞬のことで、俺の思考は停止した。

母ちゃんが流血して倒れていく瞬間がスローモーションのように俺の脳みその中で幾度も再生され続けている。

「母ちゃん...?」

喉元を引き裂かれた母ちゃんは、ひゅーひゅーと吸った空気が喉から漏れているような音を出して、呼吸している。


もう、助かりそうにないことは、馬鹿な俺にもわかった。


「さ、すけ。母ちゃん、、は、あんたを、、ずっと、、見守ってr」

「もういいから!もう無理すんなよ!」

もう駄目だとわかっていながら、母ちゃんの首から流れ出て止まらない血を抑えようと布を当てて試行錯誤し、テンパっている俺。布で止血しようとしても、布が真っ赤に染まっていくだけだった。


「、、生まれてきて、く、れて、、あ、り」


そこで、母ちゃんは、事切れた。


「...ありがとうまで、聞かせてくれよ...。うわぁぁぁあ!!!!」




母ちゃんは、俺に殺されたんだ。


なのに、俺が生まれてきてよかった?


母ちゃん、、。


なんで、最後まで、俺は素直になれなかったんだ?


なんで、ありがとうって言って、母ちゃんの饅頭を受け取らなかったんだろう?


なんで!


「おい。死体の運搬手伝え。」


「...。」


「ハァ。手伝わねぇなら、先に保安隊本部まで来てもらう。今日から、お前は、俺たちと一緒だ。」



隊員は、不気味な笑みを浮かべて、ひざまずいた俺に、母ちゃんの血で染まった手を差し伸べた。

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