0食目 プロローグ
はじめまして!見に来て下さりありがとうございます!
なろうで書くのは初めてですが、ロステルお嬢様のゆるゆるストーリーを楽しんでいただけると幸いです…!
「できた…っ!やっとできたわ…っ!!!」
しん、と静まり返った夜更け、蝋燭が灯す長机に煩雑に並ぶ器具の一つから、私が待ち望んでいた反応が起こっていた。そうしてできた物質を他に作ってしまっておいた物と混ぜ合わせ、錠剤として固める。
「エルフィナ!研究終わったわ!」
「…やっとできたんですか、ロステル様。」
木製のドアの向こうから、気だるげな声が聞こえる。久しぶりに聞く声だが、変わりなく元気そうだ。
「ほら、入りなさい!」
「…わかりました。」
いつのまにかヒビが入っていたドアが音を立てながら開く。廊下の光が逆光となり彼女の顔がよく見えない。
「…それで、今回はどのような物を?」
彼女は怪訝そうな態度でそう尋ねる。
「聞いて驚きなさい!吸血鬼でもご飯が食べられるようになる薬よ!」
この言葉の後数秒、微妙な沈黙が場を覆う。
私としては素晴らしい発明なのだけど…何かいけないのだろうか。
「いや…まあ確かにすごいのですが…。お嬢様、今回の研究で何年ほどここに籠っておられたと思います?」
「へ?ん~、5年くらい?」
「ブー、ですお嬢様。」
彼女はすらっとした腕でバツ印を作りながらそう言った。
というか、『ブー』って何なんだろう。そんな言葉聞いたことがないし、妙に気の抜ける変な音だ。
「わかった!10年!」
「遠すぎです!80年ですよ!?8倍です!毎日毎日使用人としてお嬢様がここから出てくるまで自由に動くことができず働きっぱなし…ただでさえ低賃金で……」
まるで黒魔術を使うときのような早口でブツブツと話が続く。
さっきエルフィナは私がここに籠ってから80年たったと言っていた。確か研究し始めたのが1940年くらいだったから…今は大体2020年か。
ふと思い立って羽をバサッと広げる。この感覚も80年ぶりか。その前もそんなに飛んだ覚えはないけれど。
天井の窓を開け、月下に降りる。
目を瞑りながら月に向かって一直線に飛ぶのは心地がいい。まるで研究に没頭しているときのような感覚だ。
「わぁ…。」
まるで、別世界だった。
空を衝くほど高くそびえる建造物、深夜に活動する多くの人間たち。
私が籠り始めた頃はまだまだ整備がなされていなかったはずの車とかいう乗り物も、今になっては凄まじく普及しているようで、専用の道がずうっと遠くまで張り巡らされ、その上を数多の光が流れていく。
その分空は昔よりも星が少なくなり、ぽつん、と置いてけぼりにされている月が少し寂しそうだ。
「ほんと…お嬢様がいない間に世界が一気に変わったんですよ?」
飽きれた口調でぼそっと呟きつつ、エルフィナが飛んできた。
「そうね…80年か。」
「そういえば、本家の皆さんの間で噂でしたよ?お嬢様が部屋の中で死んでるんじゃないか~と。」
「そんなまさか。寿命もまだまだずっと先だし、ハンターに襲われたわけでもないし。まあ今もだれに襲い掛かられてもすぐ返り討ちにしちゃうけどね!」
「お嬢様だったらそうでしょうね…。ただ、今はもう襲われたりすることはほぼありませんよ。人間と吸血鬼、手を取りあおうという感じにここ数十年なってきているので。」
「そう、いいじゃない。煩わしいことが無い方が研究もはかどるし。」
また周囲がしんと静まる。80年たったものの、フィナの物静かで気だるげな雰囲気は昔と変わっていないようで少し安心する。
もっとも、私たちにとっての80年はそこまで長くはないから、大きく変わっている方がおかしいのかもしれないが。
「一度お戻りになられますか?」
「そうね…」
80年のうちに世界はかなり変容したらしい。
私が一番興味を持っているのは人間たちの食だけれど、他の人間たちの進歩を知ってから味わうのもいいかもしれない。
私ことシェイナ=ロステル=ヴェルフィール、楽しみは後に取っておくタイプだしね。
「…そうね、いったん戻ろうかしら。屋敷で今のこといろいろ教えて頂戴。」
「かしこまりました。」
「──へぇー、そんな風になってるんだ。すっごい進歩したわね、人間たち。」
「私もそう思います。先ほどご説明したインターネットやスマートフォンも、よく使えば凄まじく便利なものですしね。」
「うーん、ゲームとかテレビとかの娯楽も気になるけど…まあ習うより慣れよ、よ!大体わかったところで…早くご飯を食べに行くわよーっ!!!さあフィナ、一緒についてきなさい!」
話を聞く限り、現代の食はさらに進歩を遂げ、ヒンシュカイリョウ?とかなんとかかんとかの研究とかで昔よりもっとおいしいご飯が食べれるようになっているらしい。
しかも、さっき使い始めたインターネットによると私たちの今いる日本はかなりご飯のおいしい国らしいし、これは期待ができる。血液だけのつまらない生活をやっと止められる時が来たのだ。
「待ってなさい!人間のごはん!」
居ても立っても居られず、フィナの手を引っ張り全速力で玄関へ向かう。
「ちょ、お嬢様!そんなに引っ張らないでください!!それに今まだ…」
「つまらない生活とはもう…ぴにゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
玄関を開けた瞬間、太陽の光が私を襲う。
「遅かった…。」
「遅かったじゃないのよ!?私の大事な金髪焼けちゃったし!体もちょっと灰になっちゃったんだけど!」
「そんなに勢いよく走ってるお嬢様を止められる人いませんよ…。もっと自分で注意してくださらないと…。」
「うぐぐ…何も言い返せない…!」
「髪の毛とかはちゃんと整えますから、丁度イメチェンになっていいんじゃないですか?もともと髪長過ぎましたし。」
「…まあいい感じにしてくれるならいいわ。」
「──気を取り直して!今度こそ行くわよ!」
あの後、フィナに髪を綺麗に切り揃えてもらい、現代的な服も貰って着替えてみた。
今のお嬢様の身体だと合う服がほとんどない、などと失礼なことを言われたが、可愛らしいものだったので良しとする。現代ではこういう服をゴスロリとか言うらしい。
「スマホ…よし、お財布…よし、薬もよし!さあフィナ、行きましょ!」
「こう見ると小さい子のお使いを見てるみたいで面白いですね…」
「なによ!失礼ね。もう何千年も生きてる吸血鬼にそんなこと言っちゃいけないのよ?」
「失礼しました、ですがあまりにお似合いで可愛らしかったのでつい…。」
「微妙に含みがあるのが気になるけど…まあいいわ。さっ、行きましょ!」
靴を履いて玄関を開けると、さっきと違って月が優しく出迎えてくれた。
「──さあ、美味しいごはんを食べに行くわよ!」
次から食べる描写を入れていきたい!