第八話 メイカ・フォン・ディッセル
ある日の昼下がりのこと。
本日はメーティル先生が来ない日なので自主練をする。
すると珍しく父上が話しかけてきた。
「おい、冒険者ギルドや魔法師ギルドにはもう登録は済ませたのか?」
「いえ、登録しに行っても大丈夫なのかわからずまだ行っていませんでした」
父上はふむと少し考え僕にまた話しかけてくる。
「魔法学校にも通うのであれば金も必要になるだろう。 登録の許可と、外出の許可を出す。 使用人達にも伝えておこう」
父上が優しいのが何か企んでいるのではないかと身構えてしまう。
「ありがとうございます。 近いうちに登録しに行って来ようと思います」
父上はうむと一言だけ言って庭を後にする。
ギルドの登録の事は一応は息子だから気にかけてくれているのかな? と思うとちょっとにやけてしまう。
ただ...「うむ」とか「ふむ」とか使ってる事が多いから少しお爺さんみたいな人だよなぁって思ってしまう。
そして実験に戻る。
初級魔法の理解度の向上と錬金術による再現だ。
魔法自体は夢の男の世界の言葉で言う物理法則が適用されていることがわかった。
ファイアアローやファイアボールが自然落下していくのがまさにそれである。
魔法には質量があるということが明確になってきた。
これが分かったところで頭の良くない僕にはあまり良くは分からないのだが。
それでも分からないよりは何倍もいい結果に転がっていくと思う。
思い立ったが吉日 ということで早速試してみる。
空気と魔法に摩擦があるのか、空気中の魔素と魔法に摩擦があるのか実験することにした。
方法は簡単だ。
それは魔法の表面の魔力を薄く滑らかにし、魔素との抵抗を下げるという方法である。
これが成功したら酸素ではなく魔素との抵抗ということになる。
「よし! 炎よ、爆ぜろ!」
手応えが無かったことに驚く。
普段なら魔力の引っかかりのようなものを感じるが感じない。
それどころか発射速度も上がっていて落下もほとんどしていない。
これは初手から実験成功である。
まだまだ難しいか拙い魔力操作でここまで体感があるのだ。
魔力操作の技術を磨けば上級魔法クラスの火力になりうる可能性を感じてしまった。
まだ上級魔法見たことないけどね!
的が壊れてしまったので的を錬成しなおしておくことにした。
鋼鉄製の的なので自分でも再錬成できるようになった。
形をイメージし、物質を一度分解し再構成させる。
本で読んだだけだが錬金術は基礎程度のことは出来るようになってきた。
この調子で色々学んでいけば結果的に俺って僕は偉人になれるんじゃないかなって思う。
その前に調子に乗りすぎて転ばない様に気を付けないといけないけど。
とりあえず近いうち剣を買って冒険者登録しに行こう。
急に庭に一人の女騎士が入ってくる。
僕専属の騎士のメイカ・フォン・ディッセルだ。 十七歳で宮廷騎士団長の弟子である。
「旦那様から聞きました。 冒険者登録をなさると。 私も付いていきますので、よろしくおねがいします」
なぜちょっと怒っているのだろうか? 顔が怖いのだけれど。
「あ、あぁ。 わかった」
女を怒らせてはいけないと夢の男が悟っていたことを思い出し、僕も取り繕っておく。
仕方ない...よね...?
今年の魔法学院を受験をし、合格したら来年から魔術学院に通うことになる。
僕の学費は家で出してくれることはないから必死で稼がないといけないのだ。
また社畜になっちゃう...?