第八十二話 森への突入
歩くこと数日。 大きな森が見えて来た。
これがエルフの住まう森だろう。
色んな種類の木が生えているのが見て取れる…。
が、木の魔物のトレントがこちらを見て居るのがちょっと気持ち悪かった。
森の上空だけどんよりと曇っている。 状況が芳しくないという事だろうか?
感じ取ったのは俺だけではない様で、皆焦りを感じていた。
「皆、一旦休憩を取った後、テイル君に錬金術で身体強化を付与してもらい、走るぞ!」
マーリン様、俺、他人に対して身体強化の付与なんてやった事ないです。
「ま、マーリン様?」
「やれ!」
「はいっ!」
威圧感が凄かった。 一睨みで下位の魔物なら死んじゃうくらいの威圧だったと思う。
そんな冗談はさておき、この人数分の付与の同時行使となるとかなりの集中が必要になる。
今から練るしかなさそうだ。
「おい、テイル君なにをしとる? 休憩だと言っているだろう」
「今から練らないとこの人数への同時行使は即座に出来る程の練度はまだ無くて」
「そうか、苦労をかける」
森の魔素が濃いからかドンドン練りあがる。
思いの外早く出来上がってしまったが、一応周りに身体強化を掛ける。
「身体強化かけました。 これ、周りの魔素を吸って行使されるので、基本的に魔力切れになることはありません。 魔素を断ち切るイメージをすれば強制終了することが出来ます。 後は、術者である俺の意識が無くなったら術が消えます。 あと、魔法の身体強化との重ね掛けが可能でした」
一同から把握してもらえた。
身体強化を重ね掛け出来るのはマーリン様、ガイル様、ドーラ様、メーティル先生だ。
多分他のメンバーは出来ない。 俺もそろそろ出来る様になりたい。 詠唱は分かるんだが…。
「では、森へ踏み込むぞ! 天然の罠だらけじゃ。 ワシが先行するから動きを真似してついてこい」
走り出すマーリン様…ほんとにお年寄りとは思えない身体能力をしている。
俺はまだついていけてるが、他の学院生組が…。 もうぜぇぜぇ聞こえる…。
「そうじゃ! 森の中では火属性魔法は基本禁止じゃ、緊急事態のみ致し方ないので許可する」
「はい!」
俺はしっかり返事をする…が。
後ろからは、「ひゃい…」「ふぁい…」「は…い…」
死にかけの三人組がついて来ていた。 状況によっては笑いまくってそうだ。
「眼前にトレント十体敵意あり! これは…! 魔操石を埋め込まれておるかもしれん!」
書物で見たことがある。 魔物を意のままに操ることのできるアーティファクトの類だと。
「どこかに石が埋め込まれているはずです。 探し破壊するか、この魔物を討伐してください」
俺は一早く動く。 アーティファクトなので魔力を若干発しているそこを目掛けて縮地して飛び込み、斬り込む。
魔素の濃い場所の魔物は強いという当たり前を忘れていた俺は、剣が押し返された事に焦る。
「テイル君! 剣に魔力をしっかり纏わせるのじゃ」
失念していた。 魔力の伝導率の良い剣をわざわざ選んでいた事を。
そして、考えた。 ただ魔力を流すのではなく、錬金術で魔法を付与する事も可能なのではないか。
魔力を纏い土台を作る。 そこに、雷属性の無名魔法を纏わせる。
バチ! バチバチ!
剣先がしっかりと雷を纏う。 魔力伝導のお陰か無名魔法でもかなりの威力に見える。
これは成功したようだ。
もう一度飛び込み、魔物を操るアーティファクトのある場所へと勢い良く突き刺す。