第八十話 馬車の旅
国外への遠征は今回が初となる。
皆緊張でガチガチになっている中ドーラ様、三賢者のお二人、メーティル先生は緊張を知らない様だった。
慣れたら存外楽しい旅になるのかもしれない。
だが開始早々からお尻が痛いのだ。 街中と違い、碌に舗装のされていない道ではかなりお尻や腰に響く。
俺はクッションの商品化を思いついた。 が、素材が無い上に馬車の中なので作ることができずにただただ耐え抜くと誓った。
朝食を抜いて来た事で小腹が空き始めたなと思った頃、ドーラ様から『ぐぅ~』という盛大な音が聞こえてきて皆聞こえない振りをする。
そりゃあ、偉大な存在に「お腹空いてるんですか?」なんて気安く聞いて良いか分からないよね。
俺はそっとマジックバッグから薄いパンと野菜、作り置きしたハム等の素材を挟んで切り、人数分用意する。
ただのサンドイッチである。
「これ、良ければどうぞ…」
「なんじゃこれは?」
皆訝しげにサンドイッチを見つめる。
「これはサンドイッチです。 俺流に改良しました」
「ほぉ、どれどれ」 はむっ!と一口食べるドーラ様。
それに続いて皆も食べる。
皆からは好評の様だった。 特にメイカも片手で食べれるサンドイッチをチョイスした事を喜んでいた様だ。
お腹が膨れたのか皆眠ってしまう。
警戒心無いなぁ。 と思いつつマーリン様とガイル様を見ると、寝ながら無属性魔法のサーチを行使していることが分かった。
寝ながら魔法って行使出来るんだ…と俺は初めて知る。
その十五分経った頃だろうか、ゴブリンの群れと思わしき集団がこちらに接近しているのが見て取れた。
念の為俺もサーチを行使する。 すると引き離す様な形で後ろから追いかけて来るゴブリンの集団と、前方から道を塞いで邪魔をしようとする集団があるじゃないか。
ゴブリンの謎の連携に驚いて居たが前方に水属性魔法で水流を作り押し流す。
そして、無事通り抜ける事に成功。
なんだかなぁ…。
夕刻になり、一度馬車を道の脇に止め夕食の準備に入る。
俺は買ってきた材料をだし、皮を剥き、切り始める。
皆手際の良さに驚いている。 そして何よりは、魔道具としてのコンロを改良したことで、従来は魔石が無くなり次第終了だったが、壊れるまで使える様になった新開発のコンロも持ってきたのだ。 試作品だが。
フライパンに少量のバターを溶かし入れ薄切りにした玉ねぎを入れ火にかける。
玉ねぎがしんなりしてきたところで、少量のワインと鶏肉を加え、さらに炒める。
鶏肉に火が入ってきたところで小麦粉、塩、にんじん、ジャガイモを加え、粉っぽさが無くなってきたら弱火で十五分ほど煮込む。
ここまでで分かった人は普段から料理をやっている人かもしれない。
全てに火が通ったらミルク、自家製コンソメを加えて混ぜて少しだけ煮込む。
これでシチューもどきの完成だ。
パンと器を出し、全員分取り分ける。
様々な物から物質分解しかき集めた銀で作ったスプーンを皆に配る。
「おい、テイル君…。 この素材銀ではないか? しかも、高純度…いや、純粋なる銀か!? だとしたらどうやって!?」
「色々な物に混ぜられていた銀を錬金術で分解しかき集め、ナイフ、フォーク、スプーンを作りました。 多分ここに居る人数の倍の数は用意出来てると思いますよ?」
マーリン様をはじめとする一同が頭を抱えた。
「テイル君。 こんな物を世に出してみろ。 誰かに狙われるぞ?」
「あはは… ま、食べてみてください。 どうぞ!」
「ごまかしよって…。 なんじゃこれは! 旨すぎる!」
「これはシチューです。 パンを浸けて食べても美味しいですよ」
一同がスプーンの存在を忘れるくらいには骨抜きに出来る味に仕上がったらしい。
願わくば胡椒が欲しかったところではあるが…。
と、思っていたら普通に寝るまで皆に説教されました。