第六十四話 無詠唱の序得
風が吹き荒れる。 それは何かの前触れが如く。
テイルは無詠唱魔法を伝授してもらう為学院に訪れていた。
この日は学院が休みの為、がらんとしているようだ。
教頭とすれ違う。 その視線からは殺気の様な物を感じ、今にも取り殺されそうだ。
マーリン様に諭され去っていく。
あいつからも邪悪な気配を感じたのだが、一瞬だけだから俺の勘違いかもしれない。
「無詠唱とはイメージを大切にすることと、魔力の流れを意図的に起こし、心の中で詠唱分を思い浮かべるだけでよいのじゃ」
「そんな簡単なことなのですか?」
「そんなことなんじゃよ。 じゃけど、イメージと魔力の流れを意図的に起こす事がとても難しいのじゃ」
俺は伝説の能力が意外に簡単そうで驚きが隠せずにいる。
「意外とすぐ習得出来そうです」
俺は魔力を意図的に流動させる事を習得してしまった。
あとはイメージだけだ。 イメージに関しては錬金術で慣れているのでもしかしたらすぐに習得してしまうかもしれない。
「イメージも錬金術で魔法を模倣する時と変わらないですかね」
「ワシにはそれが出来んからなぁ、わからん…」
「そうですよねぇ」
俺は少しここで行き詰ってしまった。
錬金術の模倣の様に上手くいかないのだ。
元の性格のせいか少し気が立ってしまい、いらついてしまう。
「くそっ! 出来ない!」
「そんなすぐ出来てしまったら三賢者が名折れだわい…」
たしかに、それもそうだ。
稽古も一区切り付き、休憩に入った時のこと。
「遠くで妖精の気配を感じるのう。 まだまだ遠いが…。 エルフか何かの一大事か…」
「そんなことまで分かるんですか?」
「賢者だからの!」
自信満々にふざけて来たので、ちょっと放っておこう。
「え、ワシ無視されとる?」
「敬ってますよ…」
一応
雑談しつつ、休憩終わりまで待っている。
あまりに暇なので指先に火を灯す。
無詠唱で魔法…使えてしまった。
あとは名のある魔法をやるだけだ。
ふと見たらマーリン様も驚きを隠せていなかった。
「お主、吸収力バケモンじゃろ。 このままじゃ四賢者になっちゃうわい!」
盛大な突っ込みを入れられてしまった。
否めないので、何も言えなかった。
この光景すら邪な者達は想像すらしていなかった。
テイルを、テイル達を、舐めていたのだ。
その晩、天が動いた。