第六十話 月影
長い夢だった。 それはとても辛い記憶の様な。
奥義に触れた。 見様見真似だが出来そうな気がする。
俺は宿へと向かい、ドーラ様へと声を掛ける。
「ドーラ様、手合わせお願いできませんか?」
「ほぁ? なんじゃ? 良いぞ?」
「ありがとうございます」
外へと向かう、ドーラ様は鼻歌を歌って居る。
なんとも余裕そうである。
「では、一本取った方が勝ち、と言うことでどうでしょう」
「よいぞ、我に触れられるのならな」
両者向かい合う、そして木の枝を投げ、落ちたら試合開始だ。
先に動いたのは俺だ。 縮地からの瞬閃にて動きを封じる。
しかし、片腕で弾かれてしまう。
俺は、軽剣術の技をあまり取得していない。 なので、戦闘面においては甘いのだ。
もう一度、縮地、瞬閃の組み合わせを…。
パシィ。 と鋭い音がする。 木剣を掴まれてしまう。
大きく振り払われて投げ飛ばされてしまった。
「ぐっ…」
「テイルよ、何を迷っておる? 何が怖い?」
俺は木剣をを上段に構え足を踏みしめ、気迫を貯める。
「月影一心流の奥義、月影」
「なっ!」
隙は確かに大きいが踏み込みの速度や振り切る速度はかなり速く、一度モーションが発動してしまえば避ける事は不可能だ。
「ぐはっ!」
「届いたぞ! ドーラ様!」
ドーラ様はニヤリと笑い、こちらに瞬間移動して来る。
そして、俺を殴り飛ばし、俺は壁にめり込む。
「かはっ」
「甘いぞテイル! 加減をしたな? 殺さない様にと! それが貴様の慢心じゃ!」
俺は徐々に離れていく意識の中ドーラ様の鋭い笑みだけが俺の心に刺さってくるのだった。
「おや、これは…、やりすぎてしまったかいの」
「まぁ良いわ。 テイルもしばらくすればじきに目を覚ますじゃろうて…、して、先ほどの一撃、テイルが殺意を持って急所を狙ってきたら我は確実に大怪我、無いしは死んでおった。 あれは一体なんじゃったんじゃ」
ドーラは謎に包まれたテイルの一撃を考えながらも、無事だったことに安堵している様子だった。
「まさか、あれが…。 かの転生者の知識、力か? だとしたら恐ろしい。 魔王なんて赤子じゃ」
ドーラは独り言ちながら、テイルを看病しているのであった。
そして、魔王は今も…。