第五十九話 ある日の夢
懐かしい記憶だ。 懐かしい夢だ。
俺は木刀を振って居た。 黙々と素振りをして居るようだ。
父親の姿が見える。 この道場の師範だ。
教える事が上手くとてもいい師範である。
…。 だが、父親としては最悪で、酒に溺れており、毎日俺達家族に暴力を振るって居るのだ。
所謂、DVと言うやつである。
そんある日、母親が夜逃げをしたのだ。
父親は怒り狂った。 物を投げ飛ばし、近くに居た俺を蹴り上げ、首を絞め、「殺してやる」と…。
俺は、慌てて手元にある木刀で腹に一撃をなんとか入れることができ、解放された。
父親は蹲っている。 俺は冷静な判断が出来ず、酒のせいだと思い、水を無理やり、吐くほどに飲ませた。
結果的に父は寝てしまったので分からなかった。
そして、翌日も木刀で素振りする。 ずっとそうだ。
生活習慣になっている。
すると父親から声が掛けられる。
「おい、模擬戦をしよう。」
「はい、わかりました」
道場にて向かい合い、お互い緊張している。
「始め!!!」
父親から合図がある。
始めに動いたのは俺だ。
「シッ!!!」
ちゃんと思い出せないがその剣術では、とても素早い袈裟斬りがある。
取った。 そう思ったのもつかの間。
「甘い! それは俺には届かない!」
しっかりと受け流し、重厚な反撃を入れて来る。
俺は間一髪で避けるが掠める。
木刀なのに切り傷が出来てしまう。
本当に怖い。 直撃すればまぁまぁな怪我をすることは間違いない。
「次はこちらから行かせてもらうぞ」
はっ! と言う掛け声と共に重く冷たい、音が鳴り響く。
それを俺は受け流し、父親の様な反撃の一撃。
手応えはある。
父親は弾かれて転んでいる。
「くっ。 ぬかったか。 だが、まだ!」
父親はまだやる気の様で、立ち上がる。
俺は押し黙ったままだ。
「月影一心流の奥義、月影。今こそ、見せてやる」
がしり…と木刀を上段に構え足を踏みしめ、気迫を貯め込む。
刹那
「来てください父上!!!」
「月影ぇ!!!」
俺は父上の木刀を弾き、父上に木刀を突き付ける。
「父さんは、俺を愛して居ますか?」
泣きながら、俺は問いかける。
「俺には、お前たちを愛する資格なんてない」
無意識に、父親を殴っていた。
「父さんはこうやって、俺や、母さんを苦しめて来た!!! 今更! 何を今更!!! 資格がない? ふざけるな!!!」
「愛しているよ…。 とても不出来で、すまなかった」
ここで俺の夢は途切れたのだった。