第五十六話 アリサの手記
納骨も終わり、ダイヤモンドも完成したので俺達は各々家へと帰る事となった。
昨日は宿に泊まったので、家に帰るのは二日ぶりだ。
「「おかえりなさいませ」」
セバスとルルファが迎えてくれる。 一人足りないのが凄く胸に穴が開いた様な感覚に陥ってしまう。
「ただいま、これから夕ご飯かな?」
「えぇ、そうなっております」
「そう、わかったよ」
ちょっと憂鬱な時間が来るのだった。
なぜ一緒に食事を摂らねばならないのか…。
一足先に食卓へと向かう。
すると、アレクがもう座っていた。
チラリとこちらを見やる。
「エリーシア家の末女が死んだと聞いたが」
「それはアリサの事でしょうか?」
「あぁ、そうだ」
あまり、言葉を多く語ろうとしてくれない。
「俺を庇って。 天命を…」
「そうか、犬死したか」
「そんな! 物の言い方があるのでは!」
「黙れ! この不遇職! 食事が終わったらエリーシアの女の部屋を片付けろ。 お前の侍女なんだからお前の責任だろう。 お前がやれ」
暴論だが、これは仕方がないことかもしれない。
「わかりました」
そのまま嫌な空気で食事が終わり、俺はアリサの部屋に向かう。
アリサの部屋の扉を開けると非常に質素で、生活感を感じさせないなんとも言えない空間が広がっていた。
その中でも目を引くのは机だろうか。 綺麗に整頓されており、何も置かれてはいない。
引き出しを開けるとそこには手記の様な物だけが置いてある。
俺は恐る恐る中を開く。
『私はテイルお坊ちゃまに恋をしました。 それは、テイルお坊ちゃまが私がミスをした時に庇い立てしてくださった時の事です。 胸が打たれました。 もう、この方に一生お仕えするしかない…と』
どんどん読み進めて行く。
『私は暗殺貴族として何度も人を殺しました。 もう、テイルお坊ちゃまに顔向けが出来ません。 消えてしまいたいとすら思います。 私は、私のこの想いはもう…』
なぜだろう、心が痛い…。 軋む…。
『沢山の命…。 赤子や老人、貴族、平民問わず殺しました。 私の手は…、心は…、穢れている…、テイルお坊ちゃまには不釣り合いだ…。 離れよう。 そうだ、そうしよう』
『私はテイルお坊ちゃまを殺そうとしました。 成功したら私も死ぬつもりでいた。 ですが、それは失敗に終わりました。 良かった。 ですが、テイルお坊ちゃまはもっと深き試練が待っている…』
『テイルお坊ちゃまの助けになりたい…』
最後のページはその言葉で締めくくられていた。
俺は涙を拭き、部屋を無言で片付けていった。