第五十四話 金剛錬成
骨がじわりじわりと集まってくる。 そろそろ終わりの頃合いだろう。
俺は別の容器に骨を一部だけ分ける。
「む? テイルよ、何をしているんじゃ?」
ドーラ様がこちらの様子に気付き声を訝しめに掛けて来る。
「僕の前世には、マイナーでしたが遺骨の一部から人工のダイヤモンドを作り出す…。 ということが出来ました。 もしかしたら、と思いまして」
「ほう…、ダイヤモンド…」
かなり深く考えている。 何か思うところがあるのだろう。
「では、このまま錬成を開始してみようかと思います」
俺はこの骨から不純物を少量ずつ取り出し、分けていく、地味な作業だ。
…不謹慎かもしれないが少し楽しいとすら感じてきてしまう。
これは前世の性だろうか…?
「不純物の排除…ほぼ完了…。 一応次の錬成を平行で行います」
独り言ちながら作業を進めていく。
不純物の残りを取り除きながら、平行して炭素を抽出していく。
ちゃんと出来ている。 手応えはある!
そして、分離出来たその炭素の塊を、新しく錬成した魔道具で高温で圧縮処理することで結晶化して、ダイヤモンドを生成していく。
それにはかなりの集中力を必要としていて、じわりじわりと錬成されていく。
他の三人の表情は驚愕の色を帯びており、まるで錬金術師の凄さを再認識している様な、そんな顔をしていた。
徐々に出来上がる輝かしいダイヤモンドに、俺の瞳から流れる涙の粒が反射する。
「そういえば、ここに居た観客の方々は…」
メイカがドーラ様とマーリン様に伺いを立てる。
「魅了の掛かっていないマリア、エメリーが先導して魅了の解けた者を避難させてくれておったぞい」
「なるほど、そうだったのですね。 私も後で感謝を述べておきましょう」
俺も後で、感謝を言っておこう。
俺一人だったら下手したら皆殺しまであったかもしれない。
ジャッジメントノヴァ…。 凄い威力だったな…。
俺も聖属性を模倣出来たら邪の属性の者に対抗しやすいのだろうか。
「ドーラ様、ジャッジメントノヴァって聖属性ですよね…?」
「そうじゃぞ、あれは龍種でも上位の位の者や、上級聖職者で無いと使えんじゃろうな。 テイルのような錬金術師は例外じゃろうて」
「なるほど… 俺は例外なのかもしれないのですね」
苦笑いするしかない。
ジャッジメントノヴァやピュリフィケーションを模倣出来れば戦闘の幅が広がりそうだ。
「他にも、ディバインレイなどもあるな…。 後学の為に覚えるのも良いかも良いしれんな」
他にも沢山魔法があるようだ。 錬金術なら模倣が沢山出来そうなのでワクワクしている俺が居る。
素直に楽しみだ。
「ありがとうございます」
ダイヤモンドが完全に結晶化してくる。 輝きも硬度も天然のそれと変わらない。
初めてにしては上出来と言って過言では無いだろう。
もう、誰も失いたくないのでこれが最初で最後にしたいところだが。
うん、サイズ感も良く、加工もしやすそうだ。
これで良いんだ。 そう自分に言い聞かせる。
ドーラ様はダイヤモンドを見て震えている。 何か思う事があったのだろうか。
「テイルよ…。 良いか?」
「はい?」
俺は訝しげに返答する。
「聖剣に必要な物なのじゃがな、上質な金属の延べ棒と核になる上質な宝石や、魔石、そして、錬金術師による錬成が必要じゃ。 して、ここで本題じゃがそのダイヤモンド…。 聖剣にせんか…」
ここで来てしまったのか。 聖剣…。




