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第五十三話 龍賢静葬

遺体を一日学院で預かってもらい、その日は俺達は一度宿に泊まって行く事にした。


宿では俺は何も考えられず、食事も喉を通らず、眠る事も出来ずに一晩を過ごしてしまった。

そして、翌日。


俺達は正式に火葬の準備へと入る。


錬金術で火葬炉を錬成する。 これは人を骨にするまでの温度に耐えれる物にしなければいけない。

しかし、そこまで難易度は高くないだろう。

学院の敷地の片隅で、俺はそれをしっかりと着実に錬成していく。


「テイル様…。 相変わらず凄いです…!」


「ほう、凄いのう…。 龍種(ドラゴン)でもここまで精巧な技術はないと思うのじゃ…。 多分ドワーフ級…いや、それ以上か…」


ドーラ様がかなり関心している様子だ。


「そうですな、ワシも長生きしてる方ですがここまでの物はなかなかお目にかかりませんわい…」


あの、三賢者のマーリン様にも褒められているのだ、少々胸を張っても良いのだろう。

火葬炉は殆ど出来上がった。 あとは遺体を運び入れ、点火するのみだ。



…ふと幼い頃の記憶が蘇る。


「テイルお坊ちゃま! 待ってください! まだお召し物を着ていらっしゃいません!」


笑いながら走り回る俺に困惑し、怒りながらも笑いかけてくれた…、三つ年上の優しいアリサ。

彼女はずっと何かを隠していた。 夜中にこっそりと家を抜け出す事もあった。

俺は聞けなかった…。 否、聞くのが怖かった。


俺が勝手に屋敷を抜け出し、スラムでゴロツキに絡まれた時だってそうだ。

メイカと二人で撃退、捕縛し、衛兵に突き出して、優しく俺を説教してくれた。

あの時は、強くて、憧れた。 でも、なぜ一介の侍女(メイド)が戦闘出来たのだろうか?


俺には分からなかった。 きっと、乙女の秘密(かくしごと)なのだろう。

ずっと傍に居てくれた…。 そんな事もあった。 だが、いつの日からか俺を避け、冷たい態度を取る様になっていった。


アリサと笑いあえる時が来なかったのが心苦しい、悔しい。

絶対に魔王の眷属を許さない。 魔王を復活なんてさせるものか。


俺はこの場に居る白く崇高な龍(ドラゴン)に、気高き賢者(けんじゃ)に、そして、付き従ってくれている愛しき騎士に密かに誓いを立てた。


そして、遺体を火葬炉に点火をする。 ごおごおと炉の燃え盛る音がする。

強敵二人に対し、全力を出しても叩き潰された己の無力さから、涙が零れ落ちる。


「テイル様…」


「大丈夫、ケジメは付ける…。 つもり」


「……」


静寂が、とてもつらい。


見かねたドーラ様が口を開く。


「錬金術で龍族の固有魔法や、回復魔法の派生属性の聖属性魔法を模倣出来るのではないか?」


俺は唖然とする。 限られた種族や天職(ジョブ)でしか使う事の出来ない魔法を、錬金術なら再現が可能かも知れない…と。


「戦略級のエクスプロージョンが出来たんじゃろ? 龍種の固有魔法の龍王級なども可能なのではないか…?」


「確かにそうかもしれません…。 試す価値はありそうです。 いや、試しましょう」


錬金術なら二重詠唱(ダブルキャスト)が使える事は分かった。 賢者の天職じゃあるまいし、ぽんぽんと本物の複数詠唱(マルチキャスト)は出来ないだろうが…。


すると、火葬が終わりの刻を告げる。 俺は骨をゆっくりと集める。


「先も言ったが身体強化を覚えて貰うが、多重詠唱も良ければ覚えてみんか? もしも行使可能じゃったら戦略の幅は広がるじゃろう。 まぁ、無詠唱を覚えてから…、じゃがな。 多重詠唱、無詠唱も魔法ではないからの」


マーリン様が優しく俺に声を掛けて来る。


「はい、お願いします」


この時、俺は強くなることを再び決意したのだった。


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