第五十一話 龍王風凪
ドーラ様から話を切り出された俺は気持ちを切り替えて聞く体制に入る。
メイカや、マーリン様も同様だった。
「テイルには龍の加護を付与したのじゃ。 付与された本人を強化し、天職の能力を底上げしてくれるというものじゃ。 しかし、あの程度のものにテイルは後れを取ってしまった。 それは加護の力が覚醒しておらんかったからじゃ。 それを説明していたら対策ができたはずなのじゃ。 すまんテイル。 我のせいで犠牲を生んでしまった…」
深々と頭を下げるドーラ様、かなり思い込んでいる様子だ。
俺が強ければ何も問題なんてなかったはずだ、俺が力を過信していなければ…。
「ドーラ様はなにも悪くないよ。 それにマーリン様に弟子入りしたんだ。 これからどんどん強くなって、魔王の復活を阻止してやるさ。 大丈夫だよ」
俺はアリサの亡骸をそのままにしておくことが気がかりで早く家に帰りたかった。 それをメイカが察知したのか声を掛けて来る。
「テイル様、先にお屋敷の方へ戻り旦那様へアリサ様の訃報をお知らせし、ご遺体をどうなさるか聞いてまいります」
「あぁ、任せたよ」
「テイルよ、お主に覚醒とは何か話しておかねばならんの…」
真剣な面持ちでこちらを見ており、その様からかなり深刻な事が伺える。
「はい、なんでしょう」
「覚醒の鍵は感情の征服じゃ。 感情は喜怒哀楽だけではない、湧き上がってくる全ての感情を、飲み込み、制するのじゃ。 意味を自分で理解することも試練の一つなのじゃ、我が出来ることはここまでである。 何かあれば都度言おう」
「感情の征服…」
考えたことも無かった。 だが、強くならないと魔族や悪魔族達が暗躍しどんどん犠牲者が増え、魔王が復活するかもしれない、ならばやるしかない。
ならば考えている暇はない、感情を征服することを考えよう。
「テイル君よ、ワシからも一つあるのじゃが良いかね」
重い空気の中マーリン様が声を上げる。
「はい、なんでしょう?」
「無属性のサーチが使えると先な騎士に聞いたぞ、であればワシが身体強化を教えてやろうか。 使える者はかなり限られておるが、三賢者であれば全員習得しておるのでな」
驚きの提案だった。 願ってもない事だし、この様な機会は無い。 ありがたく受けよう。
「はい、お願いします!」
マルディン家の書斎前にて
「アリサがテイル様を庇うとは何があったのでしょう…。 ですが、今は遺体の処遇について旦那様に問わなくては」
急用を知らせるため少し勢いよくノックする。
「入れ」
「失礼します、テイル様付きの騎士メイカでございます」
「ふむ、テイル付きの騎士が何用だ?」
急に威圧感が増す、まるで人間ではない何かと対面しているような、そんな気にすらなる。
「テイル様の学院にて魔族、悪魔族が現れました。 そして、テイル様付きの侍女のアリサがテイル様を庇いお亡くなりになりました。 そのご遺体の処遇を聞き及びたく参りました」
「ふむ、何故庇ったのか知らんがあの下らん暗殺貴族のエリーシア家の末女が死んだか、死体はどこかに捨ておけ」
返ってきたのは無慈悲な答えでした。 でしたら私のやる事は一つです。
心優しいテイル様ならきっと…。
「わかりました。 でしたら遺体の処遇はテイル様に一任して頂けませんでしょうか?」
「ふむ、構わん。 好きにしろ。 所詮使い捨ての駒如きを我が家では埋葬はせん。 これは絶対だ」
「畏まりました。 ただちにテイル様にその旨をお伝えに参ります」
私は、疾風の如き速さで馬を走らせ、学院へと向かうのでした。