第五十話 無力な光
「さぁ、ルクインダルク君。 トドメを刺しなさい」
ルクインダルクは魔力を拳に貯め大きく振りかぶる。
「テイルニシヲ」
大きく振り被られた拳が振り下ろされる。 俺は死を覚悟し、涙を流す。
あぁ、折角新しい仲間が出来たのに…。
身体強化が解けていないためか攻撃がスローモーションに見える。
すると、視界の端から走ってくる影が見える。 誰だか分からないが来ちゃダメだ。
必死に声に出そうとするも、首を絞められているので声が出ない。
その女性は長い髪を振り乱し。 テイルの庇うようにテイルの前に立つ。
「テイルお坊ちゃま! ご無事ですか!」
俺付きのメイドのアリサだった。
そして、その瞬間アリサの腹はルクインダルクの手によって貫かれた。
「おや、これはマルディン家のメイドではありませんか。 道化ですねぇ」
ケタケタとオルナが笑う。
「ゴボッ」
大量の血を口から吐き溢している。
刹那、オルナの腕が斬り落とされる。
「ぐあぁぁぁ!!!」
「間に合いませんでしたか…! テイル様! 私、メイカがドーラ様とマーリン様を連れて助太刀に参りました!」
「テイル、来たぞ」
「テイル君よ、遅くなってすまんの。 あとは任せておきなさい」
俺は無言でアリサに駆け寄った。
「アリサ! しっかりしろ!」
錬金術で回復を試みるも再生できる限界を超えており、それは致命傷と言っても過言ではなかった。
「テイルお坊ちゃま…。 ご無事で何よりです…。 私はもう助かりません。 最期に私の話を聞いてくれませんか?」
「最期だなんて言うなよ。 また憎まれ口を叩いてくれよ」
「私は貴方の事を人として異性として心からお慕いしていました...。 私は穢れた身です...。 近づいては…。 いけないのだと…。 だから私はあえて、テイルお坊ちゃまを避けるようにして生きてきました…。 サイドお坊ちゃまの命令でテイルお坊ちゃまを殺そうとしました…。 上手くいけばその時は私も死ぬつもりで...。 上手くいかなくてよかったです…」
回復が少しは効いているのか長く意識が保たれている。
「私は罪を償いたい…。 願わくば次の人生は貴方だけのために…」
最期は言いたいことだけ言ってゆっくりと息を引き取った。
自分勝手過ぎるだろ…。 幼少期の記憶が蘇る。 確かに最初、兄のサイドと同じく、俺に優しかったアリサは、ずっと俺に付き従って、共に行動してくれていた。 ぽつりと一滴涙が落ちる。
俺はアリサの目をそっと閉じ、戦闘に戻る。
「メイカ! 戦況は!」
「こちらが押していますよ」
押しているなんてものではなかった、下級の魔法を無詠唱で多重詠唱し、敵をボロボロにし、敵の鋭い腕を生身で受け止めてしまう。
これが賢者と白龍の力…。
「テイルよ、良き所に参ったな、これが真のドラゴンの力じゃ」
ジリジリと地面に大きな魔法陣が描かれる。
「我に敵対するものに裁きの鉄槌を! ジャッジメントノヴァ!」
オルナとルクインダルクはこの世から消滅していた。
「なんて力だよ…」
ここでマーリン様が付け加える。
「龍種が強いんじゃなくてドーラ様が特別なんじゃぞ」
「そうなのですね…」
「テイルよ。 お主にいいわすれておったことがあるんじゃよ…」
かなり申し訳なさそうにドーラ様が切り出してきた。