第四十七話 入学式
「これより第三十八回セントウル魔法学院入学式を開会する、一同! 起立!」
司会の言葉により綺麗に並び、着席していた俺達は一斉に立ち上がる。
緊張していて震えている子も中には居るようだ、何せ王族、貴族、平民だけにとどまらず、国内外から生徒を募って居るのだ。 そのためか格式も高くなっているので緊張感は高い。
代表の先生が言葉を述べる。
「諸君らは誉れある王立セントウル魔法学院に入学したのだ、己を律し、魔法を理解し、より高みへと昇って行くことがこの学院の生徒の責務である。 努々忘れる事無きように」
ぱちぱちぱちぱちと拍手が鳴り響く。
在校生や保護者も拍手をしているのかとても音が重い。 凄い迫力だ、圧倒されてしまう。
「続きまして、校長による挨拶です」
一同がピシリと緊張する。 明らかに空気感が変わった。
コツコツと歩く音が響き渡る。 静寂にあるただ一つの音だ。
俺はマーリン様を見やる。 すると、ひしひしと感じる。 これは絶対的強者の雰囲気だ。
「こほん、みなここに来れたという事はとても頑張ったのじゃろう。 ワシが認めよう」
皆一同に安心したような表情に変わった。
しかし、続けてマーリン校長は、
「じゃが、今年は明らかなイレギュラーがあったのう。 統率種のオーガが受験中に現れ生徒たち…いや、王都中の命を脅かしたのじゃ。 そこで、立ち上がった者がここには居る。 主席合格した、テイル・フォン・マルディン君じゃ。 皆、驚くでないぞ、彼は錬金術師である」
一同がざわめく。
「錬金術師って不遇職なんじゃないのかよ!? めちゃくちゃ強かったぞ!?」
などと聞こえてくる。
まだマーリン校長は続けてくる。
「こほん、まだ続くんじゃ。 ワシは魔王が近々復活すると思っておる。 そして、そこで必要となるのがそこなテイル・フォン・マルディンの力じゃ。 それだけでは足らん事は分かっておる。 じゃからお主らにも力を付けてもらう。 そして、テイル・フォン・マルディンはワシが弟子にすることとした。 無論皆と知識の共有もするし、皆と授業も受ける、学院では特別扱いはせん。 だが、皆には知ってほしいのじゃ、この世界では不遇な職は無いという事を。 少なくともワシはそう思っておる。 以上じゃ…。 そうじゃ。 テイル・フォン・マルディンよ、伝え忘れておったが次は主席代表挨拶じゃ、こちらへ来たまえ」
ぽつ、ぽつ、と拍手が起きる。 それは次第に大きい物になっていき次第に会場を包んでいく。
俺の戦いを見た者...。 聞き及んだ者...。 様々だろうが俺への評価は正当で、少なくとも俺が不遇であると言う認識では無くなってくれたらしい。
問題は俺、アドリブ苦手なんだよな。
とりあえず壇上へと上がる。
「ご紹介に上がりました、主席のテイル・フォン・マルディンです。 この度は私の努力が実ったこと本当に嬉しく思います。 かの三賢者マーリン様が仰った様に魔王が復活するかもしれません、それはしないかもしれません。 どちらにしても、あなた方の力は魔法界において必要なものになると私は思っています。 『命を落とせ!』 『命を賭けろ!』 とは言いません。 ですが、守ることだって、癒すことだって出来ます。 それは、あなた達にしか出来ないのです。 どうか力をお貸しください」
とりあえず皆の力を借りれる様にと謳ってみたが…。 我ながら酷いもんだ…。
すると、会場中から拍手が湧く。
こんな酷い演説でも心に届いたっていうのだろうか? 三賢者の弟子になったからだろうか?
特段悪い事ではないので俺は自分の席へと戻る。
戻る最中に穏やかでは無い視線を感じたのはやはり、不遇職だからなのだろうか。 それとも、貴族の子だからなのだろうか、あるいは…。
そうこうしていると入学式も終盤に差し掛かり、在校生達が校歌を歌ったり、魔法の演武を披露したりしていた。
なんでも伝統行事なんだとか。 前世の俺も似たような事が高校であったような気がするが遠い昔のことなのでうろ覚えだ。
式も解散し、皆一旦教室に集まる事となった。
長い渡り廊下を歩き、体育館から校舎へと向かうその途中で見覚えのある人物が待っていたのだ。
あの青髪のルクインダルク家の男だ。
「久しぶりだね。 どうしたの?」
俺は連れている二人を怖がらせない様に優しく声を掛けた。 すると...。
「おい、貴様。 このランダル・フォン・ルクインダルクとそこの女達を賭けて決闘しろ」
辺りが静寂に包まれる。




