第三十八話 白いドラゴン
「人の子よ! すぐさま立ち去れば見逃してやろう。 この場に残るというのであれば貴様らの腕を試させてもらう。 なぁに命までは取らんさ、お主らが弱くなければな」
白い龍に話しかけられてしまった。 とても逃げ出したい。
「縄張りに入ってしまったのなら謝ります。 すぐさま森を出るので今回は見逃してはもらえませんか?」
「いいだろう。 ん? まさか...錬金術師か?」
鑑定が使えるのだろうか? あっさりと錬金術師と言う事が見抜かれてしまった。
「はい、錬金術師を賜った事で周囲からはハズレ職と罵られております」
「ぐあははは! 錬金術師がハズレ職であれば剣聖など粗大ゴミではないか。 人の子は大馬鹿者しかおらんのか?」
大声を上げて笑う白龍。
錬金術師がハズレじゃないってどういう事だろう?
「錬金術師がハズレ職ではないというのは一体どういう事なのでしょうか...?」
おそるおそる聞いてみる。
「ふむ、まぁ我も魔王復活までは暇をしておったしいいだろう。 かの万能薬も聖剣も太古の錬金術師が作り出したものである。 まぁ、聖剣は鍛冶師の助力が必要だがな。 それが今の錬金術師に出来んと思うか? それに聖剣を装備できるのは勇者と作った本人じゃ。 すなわち魔王に対抗できるのは勇者と錬金術師なのじゃよ」
「ありがとうございます。 それにしても聖剣が作れるなんて驚きです。 大変貴重なお話ありがとうございました。 では僕たちはお邪魔にならない様にこのまま帰らせていただきます」
白龍の目がぎろりとこちらに向く。
「まぁ待て。 悪いようにはせん」
すると龍はひゅるひゅると小さな女の子の姿になった。
「剣聖と名乗ったヒヨッコは我に剣を向けた上に我の鱗を剥ぎ取り装備にするなどと戯言をほざきおったから軽くいなしておいたがお主らは邪気を感じんのでな。 この姿なら大丈夫じゃろうからついていくことにするぞ」
人間そっくりに変身してしまっている。
「「えぇぇぇ!?」」
僕とメイカは揃って素っ頓狂な声を上げてしまう。
それは当然だろう。
「駄目ならば帰るが聖剣の作り方は教えんぞ?」
可愛らしく口をとがらせている。
「聖剣の作り方は極めて魅力的ですが、魔王はもう既に討伐されていますし...。 復活なんて御伽噺みたいなこと到底受け入れられないといいますか...」
「なにを言っておる? お主らは知らんのか? 魔人や悪魔族などがこぞって魔王を復活させようとしておることを。 人の世に紛れて人の悪意を操り、それを集め魔王の依り代にそれを移すつもりじゃ。 過去の時代より人の悪意は醜悪じゃ。 すなわち魔王はより強力になって戻ってくるぞ」
魔王が復活するのは分かるが...。 より強力にって言うのは予想外だ。
魔王討伐パーティの勇者様も行方不明になり。 残されたのは三賢者のみだ。 この戦力では勝てないだろう。 そう言えば前に戦ったオーガもカタコトだったが確かに魔王という単語を出していたはずだ...。
「ちなみにもう依り代となりうる者の選定段階じゃ。 復活まで秒読みと言ったところじゃな。 なにせ復活なぞ、器を完成させたのちに魔王の魂を依り代に移すだけじゃ。 なにも難しいことではないからの」
そんな壮大な事を聞いてしまって良いのだろうか。
「僕達になにか出来ることがあればお手伝いはさせてもらいたいのですが...如何せん無知なもので...」
「よい、知識ならば我が補おう。 そして錬金術師よ。 面白そうじゃからお主が勇者に成り代わって魔王復活を阻止するのじゃ! 我も力を貸そうではないか」
え? 僕が?
「僕は非戦闘職なので戦闘が得意と言うわけでは...」
「む? 先ほどから何かを勘違いしておる様じゃな? それとも異世界の者と言うのははぐらかすのが好きなのか?」
「異世界...ですか?」
僕は疑問を口にする。
それこそ、僕以外は噂程度にしか聞かなかったようなレベルの話だろう。
「そうじゃ。 勇者は異世界の地球というところから来たと言っておった」
「地球...」
地球に関わることであれば全くの無関係とはいえない。 僕はしばし頭を悩ませるのであった。