第三百六十八話
スキュラの様子を伺うと流石に少しやり過ぎてしまった様だ。
よく見るとその瞳には涙すら浮かんでいる。 なんなら周囲の視線が痛い。
さっきまであんなに苦戦してたのにね!!!
「は、早く薬貰って良い!?」
「あぁ、出来てるけど効力が僕達にもどの程度か分からないんだ。 如何せん実験出来る毒物なんて無かったわけだし」
チラリとスキュラの方を見やる。
スキュラはそれを感じ取ったのかビクリと身を震わせる。
「大丈夫。 その毒を治す薬だよ。 ただ、どのくらい効くか分からないんだけど…」
それを聞くとスキュラは薬瓶を奪い取って一気に飲み干す。
飲みっぷりがまるで連勤開けのドワーフのおっさんだ。
ごきゅっごきゅっ…っと嚥下する音が波の音と同じくらいに響いている。
「すげぇ…飲みっぷりだな…」
「爽快なのじゃ! まるでオロチなのじゃ!」
「本当にオロチさんの宴会芸を見ている様ですね」
オロチと比べるなオロチと!
あれは芸人枠だろ。
『テイルよ、あまりオロチを虐めない様に皆に言ってやって欲しい…』
「あぁ、うん…」
…俺も気を付けよう。
すると、スキュラの身体が淡く光り始める。
一瞬で収まったその発光だが人の視界を奪うには十分だった。
「…どうして」
「正気に戻ったし姿も戻ったみたいだね。 良かったよ」
「…」
「リア、ニア少しだけ彼女を頼む。 団長、マックス! あの見物に来てる三馬鹿の援護に回って。 セイレーンが船に上がって来ちゃうだろ…」
「御意」
「テイル君、まかせて」
「英雄君? ちょっとくらい休憩させてくれても良いじゃないか。 と言ってる暇は無いね」
「んで、テイルは何するんだよ」
ふっふっふ。
よくぞ聞いてくれたね。
「野暮用って奴だよ。 スキュラは少しだけ待っててくれるかな?」
「…分かりました」
「じゃ、皆。 頼んだよ」
そうして、俺はある場所へと転移した。
「待っていましたよせん…」
「いや、良いよ先輩で。 それよりナールム準備は?」
「もちろん、こちらへ」
案内されたのは一つの扉。
なんの変哲もないただの”障子戸”
〔遅かったじゃないの~〕
〔ミザリア母様…申し訳ありません〕
〔冗談よ。 にしても、私だけでなくエキドナを連れて行くのは本気なのね?〕
〔はい、会わせたい”人” が居るので〕
〔人…ですか?〕
〔行けば分かるよ!〕
そう言って俺達は”四人” で転移した。
ナールムの力も必要になる可能性を考慮している。 これは事前にヴァンパイアに頼んでマーリン様とキングに伝えておいたので大丈夫だ。
「ただいま」
いきなり甲板に現れた俺達四人に驚く船の人員。
「おい! 陛下! 誰だそれは!」
「ミザリア母様、俺の妻のナールムに、スキュラの母のエキドナだけど?」
「「「「「「「「「はああああああああああああ!!!!????」」」」」」」」
あれ? 大罪とヴァンパイアまで驚いてるのは何故だ?
「どういう事だテイル! スキュラの母って!!!」
俺に詰め寄るマックス。
そう言う事ね。 もうじき分かるよ。
「お母さま…?」
〔スキュラ…〕
どうやら、セイレーンは撤退したようだ。 ウンディーネを目の当たりにしたからだろうな。
そして文字通り宝石の様な涙を流しながら抱きしめ合う二人を前にし、その場は和やかな雰囲気になる。
言語系統がちぐはぐになっているのは召喚経緯の違いか、世界線の違いか、はたまた召喚された時代が違うのか…それは追々考えれば良い事だろう。
だがこちらの言葉をエキドナは認識出来ていると言っていたのできっと通じるはずだ。
「うぅ、うぅ…親子の絆は良いモノなのじゃ…」
いや、お前のその号泣で全て台無しですよ。
地球の言語(日本語や外国語)は〔〕の表記にしました。
『』だとオロチとか海蛇王と被ってしまって分かりにくくなってしまいそうだったので...。
あえてミザリアとエキドナ達と話をしている時のテイルの言語は〔〕にしてあります。




