第三百五十話
はて…今、この爺の噂でもしている人が居るのでしょうかな…。
いやいや、こんなしがない執事の噂をする者など居てたまりますか!
よしよし、今日もこのボア殿の毛並みは最高ですぞ!!!
些か興奮していらっしゃる様に思えるのはあちらに待機させている希少種の雌達が原因でしょうかな…。
「いやぁ、実に美味そうな肉質…。 三賢者様方の入手ルート…恐るべし…」
「ブ、ブモッブモッ!」
「一部の雌は子供を差し出す代わりに自分を生かせと言っている様ですなぁ…これでも世の理と言う奴…」
勢いよくボアは駆けて行く。 雌と交尾する為に。
あの勢いで突進されて潰れない事が凄い。
多分三賢者や、大罪達であったとしてもあれにあたれば吹き飛ぶはずだ。 吹き飛ばない例外なんておよそ一人しか存在しないはずだ。
無防備な状態なら…。 まぁ、考えても無駄であることは分かっている。
「キング~おるか~」
「居ますぞ」
「おぉ、こんなところにおったか。 ちょっとこれを見てくれ」
賢者マーリン殿は爺と二人の時はフランクなので気楽でよい。
「どれどれ…。 ほう、始祖と来ましたか! 流石ですな! って始祖ぉぉぉぉ!?!?」
「そうなるじゃろうて、コウモリがこっちに先に持ってきたんじゃ。 いやぁ、流石に賢者であっても腰が抜けるかと思ったわい。 身体強化で耐えたがの!」
何を言っているんだこの御仁は。
始祖と言えばたった一体でも爺らヴァンパイアが束になって掛かっても叶わん強力な存在それを易々と…。
「しかし、なに、それだけでは終わりそうではなさそうなのが実に面白いのう」
この人の言いたい事は分かる。 誰もが見た事の無い地平の彼方。
神々すら知らないと言ったその先。
そこに何があるのだろうか。 それを最初に見付けるのはテイル様しか考えられない。
彼ならばこの世界すらも飛び越えてどこまでもどこでも…。
いや、何よりも大事な事を忘れていた。
お坊ちゃまの血を頂いた事が無いのでいつか頂こう。 きっと美味なはずだ。
「お取込み中のとこ悪いねんけどなぁ…もういっちょ手紙来てんねん…」
「「はぁ!?」」
不覚にも賢者マーリン殿と同じリアクションを取ってしまった。
「色々ツッコミたいが獣王の座にも着いて、蛇の国すらも味方に…。 このままだと蛇の国の王の座も譲られるのじゃなかろうな?」
「「ありえる…」」
「もし、始祖と子を為したら…新たな新種のヴァンパイアが生まれますぞ。 神と始祖のハーフ…」
「そうなったら世も末じゃよ」
「そうならん事だけとりあえず祈っとこや! 神様~神様~頼むで~」
「賢者様方、キング? 神様に祈る前に私達に報告する事がありませんか?」
その時、執務室が氷漬けになった。




