第三十四話 小さな祝勝会
「メイカは今何か食べたいものはあるかい?」
「いえ、テイル様とご一緒出来るのであればなんでも...」
ところどころ可愛いことを言ってくれるのでちょっと照れてしまう。
「じゃあ適当に決めちゃうね!」
そんな会話をしながら僕はとある定食屋を見つける。
多少古い外観だが中はかなり混雑しており、この辺りでも人気の店らしい。
「ここにしようか」
僕達が店に入ると、
「「「いらっしゃいませー!」」」
一斉に店員達が元気に挨拶してくれた。 元気が良いのは良い事だ。
席に通されメニューを眺める。
なんと米料理を扱っているではないか!
これは良い店に当たったかもしれない。
大体客単価も一人銅貨三枚から七枚程度と抑えられており価格も良心的だ。
僕はメニューの中で一番気になった物を見つけた。
夢の男の世界の料理にあったはずだ。
「あ、生姜焼き定食だ!」
するとひときわ元気に挨拶してくれた店員に声を掛けられる。
「生姜焼きに目が行くなんてすばらしいですね! 魔王討伐に赴いた勇者様が異世界からの転移者らしく、その世界の料理らしいですよ!」
「丁寧に説明ありがとうね! この辺りで米料理は珍しいね。 じゃあ生姜焼き定食一つお願いしようかな!」
「あ、では私もそれでお願いします...」
「お、じゃあ生姜焼き定食を二つお願い!」
メイカが申し訳なさそうにしている。
多分米料理に親しみがないのでどれを選んだらいいか分からなかったのだろう。
「はいよ! 生姜焼き定食二丁入りましたー!」
「「ありがとうございまーす!」」
奥から元気に声が返ってきた。
このお店の雰囲気はとても好きかもしれない。
家族で経営されているのだろうか?
居酒屋でこんなお店があったなぁ...。 などと感慨に浸っているとメイカに...。
「テイル様は先程から難しい顔をされたり、にやついたりとかなり表情が忙しいですね」
と笑われてしまった。
僕達は肉の焼ける良い匂いに包まれながら料理が今か今かと待つのだった。
その数分後に生姜焼き定食が届いた。
「はい、おまちどうさま! 生姜焼き定食二丁! お持ちしましたー! ごゆっくりどうぞ!」
「ありがとう!」
僕は店員にお礼を言い割りばしを折る。
見よう見まねでメイカも真似をする。
箸で米をつかみ口へ運ぶ。
「ん~! 米はやっぱり最高だ~!」
メイカはおどおどしながら真似をしているようだ。
続いて生姜焼きを食べる。
「肉汁が溢れてきて旨味が凄い。 豚油の独特な甘さとこの玉ねぎの甘辛さとシャキシャキ感の相性も良い! 味付けも醤油と生姜の香りが立つ味付けになっていて、かなり美味しい...。 これはアレが欲しくなるなぁ...」
「ほんとだ、凄く美味しいですね! アレとは...」
メイカも美味しそうに食べているが慣れない割りばしが使いにくいのか食べづらそうに見える...。 意地悪はせずに店員さんを呼ぶ。
「すいません、フォークとナイフを一個ずつお願いします」
「はいよ! お兄さんはフォーク要らないの?」
店員がこちらに尋ねてくる。
「僕は箸が使えるので大丈夫だよ!」
「お、かなり若いのに珍しいですねぇ」
メイカが申し訳なさそうにしている。
小動物みたいでなんか可愛い。
僕は箸を使い肉でご飯を巻いて食べる。
美味い。 噛む度に出てくるこの溢れ出てくる肉汁がホントに旨味の塊だ。
スープが味噌汁ではないのが残念だがお吸い物の様な味がして美味い。
メイカを見るとどうやらナイフとフォークで上手く食べれているようだった。
「どうだい? メイカの口に合うかな?」
「はい! とっても美味しいです。 この様な素晴らしい物を教えてくださってありがとうございます!」
「お兄さん達とっても仲の良いカップルですね! 良い物が見れました! 眼福眼福...」
店員さんが茶化してくる。
「メイカは僕の護衛みたいなもんですよ。 カップルだなんて言ったらメイカがかわいそうじゃないですか」
と僕も笑う。
何やら聞き取れないくらい小さな声でメイカが呟いているが僕には聞き取ることが出来なかった。