第三百十一話
あれ? 俺なんで走っているのだろう。
そう気が付いたのは半分くらいまで進んでからだった。
ここまで来ると戻って転移するのも変だし…。
「まぁ、仕方ないか…」
また駆け出す。
かなり消耗してきているけど、ポーションもあるからきっと大丈夫だ。
もっと速く着ければ良いが…。 大丈夫なのだろうか。
(テイルよ。 こちらは抑えるので手一杯じゃぞ。 そろそろ戻って来てくれんか? このままでは他の貴族どころか一般人まで被害が…)
あれ? マーリン様居たんだ。
という事は、他の賢者も居るのね。
それならもうちょっとは大丈夫だろうか。 大罪も俺の嫁達も先生も居るし…。
あれ? 先生居たか?
人が多過ぎて誰がどこに居たか把握できなかったな。
オークが丸太に座ってぼーっとしてるのを見かけてしまう。
オークってこんな穏やかに過ごす事あるんだな。
そうして横目で見ながら走っていると俺を明らかに目で追って手を振っている。
凄いオークも居たもんだ。
そこからしばらくして人の集まりを感じ取れた。
もうすぐ着くだろうな。
「さて、これはどうしたものかねぇ」
ずっと何かに追われている気がしている。
振り返っても何もいない。
軽くホラーではある。
「テイルッ! 早くどうにかしてくれ!!!」
「お、すっごい大物だねぇ!」
「何言ってんだ馬鹿野郎! 戦力の殆どが疲弊してやべェ。 これでも俺が喰らって削ってはいるんだぞ」
え? 宇宙すらも喰いきれるはずのマックスが喰いきれない?
「元の王サマを殺さない様に喰うのが大変なんだよ! 殺して良いんだったらすぐに終わってる!」
あぁ、そう言う事ね。
さっきアレを倒して来たのにも関わらず陛下は元に戻らないか。
身体強化を耳に集中させる。
ドクン…ドクン…とゆっくりながらも陛下の心臓の鼓動が聞こえている。
それと同時に異様な音が耳にへばりつく。
「どうするのが良いか分からんね」
「テイル君、あれはもう…」
「いや、陛下は生きているよ。 ですよね、陛下」
その炎人の動きが止まる。
うん、声は届いてる。
「俺達が呼びかけても無反応だったのに!?」
炎人は手を広げる。
まるで攻撃を誘う様に。
「陛下も諦めてるんだな。 アグニ様はどうですか?」
ゆっくりと頷く炎人。
そうか。 皆諦めているんだな。
俺はゆっくりと聖刀を抜刀する。
「アリサ、出番だぞ」
聖刀は白い光を纏い始める。
白凛の煌めき…とでも言うべきか。
けれど、これではきっと足りない。
「クロキ…貴方の力を貸してくれ!!!」
その言葉を待っていたかの様に、聖刀の光は神々しい虹色へと変化する。
別にあの炎人は外的要因による炎の穢れが原因だろう。
それなら。
「錬成、土壁! 錬成、空壁!」
土の壁で囲い、風の壁を蹴り己を加速させる。
今の俺は殆どの魔力が聖刀に吸われてしまって魔法が行使出来ない。
なので…。
「魔素錬成! 身体強化…五重!!!」
今にもねじ切れそうな身体の事は無視して炎人へと駆ける。
何度も何度も風の壁を作り、其れを蹴る。
一切の減速を見せないその走りを目で追えた者は誰一人として居なかった。




