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第三百十話

唯一つだけ、頭がクラクラするほどの悪意を感じ取る。

前に対峙した時よりも明らかに…。

しかもあれは転移装置か…? 俺の作ったのとかなり違うぞ。


「シンニュウシャハイジョ…」


ここの人工魔族達は迎撃ロボットみたいな扱いにされてるのかよ。


「猫の手も借りたいくらい湧いて来るけど…」


倒しても倒してもキリがない。

一匹居たら一杯居るってパターンですか? お前らは黒い閃光か何かかよ。

殺虫剤をくれ。 人工魔族に効くタイプの。


どれだけベルゼビュートで核を喰らっても、終わらない。


(モウコノアジハアキタ…)


え、ベルゼビュートも飽きるんですね。


「ま、頑張ろうね…」


(……………………………)


無反応になっちゃった。


「無心一刀」


かっこつけただけで、これはただの薙ぎ払いだよ!!!

こうでもしないとやってらんないんだよ!


「ウガ…ウグガ…」


あれ? あの異形…。

え、周りの人工魔族を取り込みながらこちらに近付いてきてるけど…。

と言うよりも一番の嫌な気配アレなんですけど…。


「ニセモノ…レンキンジュツシ…」


薄っすらと表面に鎧の様な模様が見える。

きっと異形を纏い、それに呑まれたのだろう。


まるで悪意が固まったかの様な其れは、どんどん大きくなっていく。

元々異様な力を持っていたフィリップス卿は完全にもう其れになってしまったのだな。


「キエルコトナドナイ…ニセモノヲコロスマデ…」


あの時倒したのは偽物? いや、分体だったのか。

ホムンクルス達もまだ存在するのか?

聖刀とベルゼビュートを構え、二刀流で駆ける。


月影一心流は一刀だけの剣術じゃないんだぜ?


「月影一心流…二刀…連王」


異形を削ぎ、浄化していく。

しかし、核までは届かない。 斬っても斬っても再生する。


(その者には大きな神罰が下ったのだが、其れではこの世界を破壊し尽くすだろう。 テイル殿…悪いとは思うのだが、朕らの代わりに…)


「もちろん。 月影一心流二刀奥義…風武の舞」


これは刀身が風を纏っているのでは? とさえ思わせる最速の連撃。

流石に再生速度を上回った様でどんどんと小さくなる。

もっと! もっとだ!


「神眼で見る限り、核は三つ。 なら…」


楓武の舞の最高地点は斬撃の高速化だけに非ず。

斬撃の遅延。 これが真意。


「シッ! これでどうだ」


バリィンと三つ砕ける音が同時に聞こえる。

ドロドロと異形は溶けてゆき、その形を保てなくなる。


蒸発する様に消えて行った其れを後目に俺は歩みを進める。


「ここは私にお任せを。 貴方は皆の元へとお向かい下さい」


アル…だった者と言うべきか。

だが、ここはお言葉に甘えさせてもらおう。


「分かりました。 後でお迎えに上がります」


「ぜひともそうして下さいな」


俺は転移の事をすっかり忘れて全速力で駆けていた。


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