第三百六話
「ぐ、グギャアアアア?」
いや、混乱してますよね、これ。
それはそうだ。 とうとうマックスと団長は殴り合いを始めてしまったのだから。
こいつらは全く以て何をしているんだ?
それを横目に俺はドーラへと歩みを進める。
「なぁ、ドーラ? なんとか意識が僅かに残ってるんだろ?」
返事は無いが攻撃をしてこない。
これならばきっとなんとかなるか。
「ドーラ。 今から力を流すぞ。 痛かったら耐えてくれ」
ドーラに手を触れ、力を流し行使する。
なんじゃこりゃ。
ドーラだけやけに色々と複雑じゃないか。 生けるか…。
(頼む、テイル殿…貴方だけが頼みなのだ。 ドーラを…ドーラをどうか)
分かってるさ、分かってる。
「錬成!」
これでここから最後にさっきも使ったが。
「もっかい出番だベルゼビュート! 起きろ!!!」
ドクン…ドクン。
脈打つ鼓動が不気味ではある。
「クイスギテシンドイ」
「これで終わりだから頼むぜ」
刀を鞘に入れる。 そこから神眼による鑑定で斬るべき場所を確かめる。
ここか。 これならいける。
「いっけぇぇぇぇ!!!」
ベルゼビュートでドーラを一閃する、
しかし、ドーラは無傷だ。
これが恐ろしい所。 指定した場所のみ喰らう事が出来るのがこれの特徴だ。
「先程と同じように、術を喰らい、相手に返す。 これが一番シンプルだね。 我流、一振りの煌めき」
先程の様に音を立てて人の姿へと戻っていく。
意識はすぐには戻らなそう。
だが、妻達に任せれば良いだろう。
きっとどうにか…。
さて、事態の収拾を図ったらとりあえずの炊き出しを行わなければ。
「旦那様。 被害者の方々はエルンス殿の立てた小屋で診てくれてるそうです。 まずは民の収拾を」
「そうだね。 炊き出しを行うから手伝える方は読んできて」
そう言ったのが間違いだったかもしれない。
「王宮の料理長にうちの料理長…それとそのお弟子さん達じゃないか…」
「まずかったですかね?」
「そんな事はないけど。 良いのかこれ。 まぁ、気にしないでおこう。 皆、大人数の料理を作るんだ! だから、味は落ちても良い! 全員が満足するものを!!!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
え、良く見たら知らない顔の料理人混ざってない?
まぁ良いけど。
「さぁ! やるぞ! 炊き出しと言えば! 豚汁だ!!! 肉はオークだけど!」
豚汁と言う単語に、殆どの料理人が息を呑む。
うちの調理の定番料理だし。
おい、宰相閣下、クリスエル公爵? 盗み聞きは良くないですよ。
負傷者にはこれとおかゆで大丈夫だろう。
あまり身体に負担は掛けられないからね。




