第三百一話
「血を払う動作というのはあまり意味を成さないのでは…?」
キングの質問はもっともだろう。 俺の認識が間違いでなければ実戦でコレを行っても意味が無い。
単にカッコイイだけだ。
だが、俺には秘密がある。
「確かに、どれだけ速く振ってもへばりついた物は取れない。 だから俺は風と水の複合魔法を振った瞬間に当ててるんだ。 動作に意味は無くて…単なるかっこつけだよ」
「まぁ、それをしている者が居れば猛者に見えるのは必至…。 ですが、その実を知ってしまうと何故かにこやかな気持ちなってきますな。 まるで、剣士ごっこをしている孫を見るかの様な」
「うん、キングはやっぱり一回と言わず何度かぶっ飛ばさないと駄目みたいだね。 あ、俺じゃなくて団長に頼もうか。 その方が一発一発の威力は高いよ」
「やめて頂きたいですが…。 まぁ、団長の張り手ならば避ける事は出来ましょうな」
「じゃあ、やっぱり俺がやろうか? 速いし、重いよ?」
「ぐぬぬ…」
「旦那様、キング様…戯れも結構ですが、そろそろ見えて来る頃合いですよ?」
おぉ、良い所に仲裁が入った。
この子は天使かもしれんぞ。
お、本当に見えてきた。
しかし、眼に思い切り力を込めないと見えないのはなんとも。
「坊ちゃま。 あそこで宜しいのです…か? 爺は眼が悪くなったのかしっかりと捉えられませぬ」
「そうだね。 合ってるよ。 キングがそれだけ魔力を込めても朧気にしか見えないのは流石に凄いね…。 これは普通に入れるのかな」
すると、その結界から一人の男性がやってくる。
「お待ちしておりましたぞ、テイル・フォン・マーガレット陛下!」
「貴方は?」
「教国の代表の一人、ジンクス・アルベーニでございます」
「そうでしたか。 ではアルベーニ殿。 貴殿は何故、意図的に魔力を放出しているのですか? まるで、誰かを導いている様に」
「おや、流石は神族に踏み入れたお方だ。 これだけ細く広げても分かってしまうのですな。 さて、どうしましょうかなぁ?」
彼は何か隠し玉があるのだろう。 しかし…。
「先輩? この魔力を捻じ曲げて来る良く分からない魔道具は壊して良かったんですよね? 放っておいたら何人か死んでますよ?」
「あぁ、グッジョブ!!!」
アルベーニは驚愕の表情を浮かべている。
自分の仕掛けた魔道具が壊されていた事に…だろう。
「あと、二手くらいで貴方は詰みではありませんか? アルベーニ殿」
「ち、ちくしょう!!!」
逃げ出すアルベーニ。
これで良い。
ここまでやれば自ずと…。
「ご苦労であったアルベーニよ。 永く眠るが良い」
教皇の姿をした其れはアルベーニの首を一瞬で撥ねる。
神気に近しいモノを纏う奴は、ただの人間ではない事は一目で分かってしまう。
「その禍々しい力はなんだろうか。 教皇殿」
俺は問う。
「さてな。 全てはあのお方の為に…」
何か嫌な予感だけが俺の身体を駆け巡り始める。




