第二百九十三話
「やはりテイルはそう考えたか。 よし、では…これより我らがアストレアの民は身分を問わず大陸中央を目指す!」
「「「「はっ!!!」」」」
「いひひ、それは困りますネェ?」
「過去に一度見た事があるぞ。 それは自分の全てを認識出来なくなる固有魔法だ。 だとするならば貴様は何故奴の魔法を使える?」
「さテね? 答えてもどうせ死ぬんだから…聞いタって無駄だロう?」
その闖入者の髪は紫焔の様な長い髪だ。
この色の人間は大陸を…いや、世界を探しても存在は無いだろう。
「貴様、人工魔人だな?」
「いひひ、分かったトころでナにが出来ル」
ワシは王だ。 戦うなど言語道断なのだろうな。
だが、久々に血が騒ぐ。
「宰相、この場の指揮を。 ティンバート、ライラ! 聞こえておるな? 余を援護せよ!」
「「「はっ!!!」」」
「神器招来…! 抜刀、炎獄剣…」
「皆、陛下がアレを抜かれた。 アレを知らぬ騎士や衛兵は城の者を連れて場外へと逃げなさい! アレと共に在りし者は残りなさい」
宰相のその言葉によって半数以上…むしろ殆どの兵力は避難に向かった。
だが、それで良い。
戦いに専念出来るというものだ。
「ライラ嬢や陛下には負けられぬな。 風纏」
「ナんなんダ、お前タち!?」
「貴方が知る必要は無いのではありませんかね? 音の乱舞」
「貴様ラ! 詠唱を省略しテそんなニ精密な魔法ヲ…」
ふぅ…。 ワシは一呼吸を置く。
この武具召喚魔法は強いが、神の名を冠する武具の召喚に代償が要らない訳がないのだ。
無論それはあの二人にも言える事だろう。 故にこ奴はここで討たねばならぬ。
「白凛とした旋律を奏でるは純銀なる戦女、瞬きて仄暗き闇から光を灯さん。 我の調律に導かれ、敵を打ち倒せ。 メロディックカオス」
「ぐッ!!! なんだコれは…。 聞いていた威力とはチがう!」
「そうか、誰に聞いたのか喋れば貴様を見逃す事も考えよう。 瞬閃」
「炎獄の誘い!」
ワシはこの斬撃には自信がある。
かつて隠れて冒険者をしていた頃にイレギュラーな回復能力を持つモンスターすら倒したのだから。
「ぐアああああアあ!!! か、回復しない!? 何故ダ!!!」
「楽には逝かせぬぞ。 我が国を襲った落とし前付けて貰おうか」
「ね、狙いハ各国の領土ダ!!! それト彼を奴隷ノ様に扱ったこの世界ノ者に復讐ヲ…」
「そうか。 貴様らの行いには…何も無いのだな。 であればこそ、英雄には勝てんよ。 その程度の奴らならばな」
「我ラが主ヲ侮辱スるな!!!」
そんな弱弱しい攻撃は当たらんよ。
それに、その身体ではもう息をするのも辛かろう。
「もう喋るでない。 今楽にしてやるからの。 焔斬」
「ガッ…アッ…」
炎に包まれ崩れ行く人工魔人。
彼の者はきっと洗脳をされていたのだろうな。 心底忌まわしい。
「そこな吸血鬼よ。 テイルの元に報せを出してくれぬか?」
「御意」
その様子をずっと見ていたコウモリはそのまま飛び立った。
「お…お父様…?」
「サリィよ…いつの間に到着しておったのだ? …これがかつて武の王と言われたワシの力なのだよ」
唖然とするサリィの肩にそっと手を置くナールム嬢の姿はまるで本当の姉妹の様だった。




