第二百八十四話
何故か街の人々が体調悪そうなのが気に掛かる。
理由を一人に聞いた所、陛下が酒のつまみを配った事による酔っ払いが続出だとかなんとか。
あの狸爺め…。 許さんぞ。
うちの領民を餌付けするなんて。
「旦那様、陛下は凄いですな。 自らの私財で領民に酒のツマミを配ってくださったのですから」
「いや、それは餌付けだろ」
「そうとも言いますな。 陛下も苦労をされているので余り強く言わない様になされてくださいましの」
「まぁ、それは分かっているんだけどね」
「陛下は忙しすぎてご自身の一人称が行ったり来たりしていらっしゃいますからな」
「それも王として頑張っている証…か」
大きく頷くキング。
まぁ言わんとしている事は分からない訳ではないが。
上に立つ者の責務と言うかなんというか…あれは凄い心身共に負担が大きいはずだ。
だからと言って陛下が狸爺である事は変わらないけれど。
「陛下が一国の王としてではなく。 旦那様の家族として接しようとしている事はちゃんとご理解をしてあげてくださいまし。 爺の言える事はこの程度でしょう」
「分かってるよ。 ありがとう。 だけど、それならキングもアレク父様も、クリスエル公爵閣下も家族だよ。 宰相閣下だって親戚のおじさんみたいな感覚だ。 そこはちゃんと理解しているよ」
「それなら宜しいのです。 差し出がましい事を申し上げてしまい大変失礼致しました。 しかし、爺も家族…それは…嬉しいですな…」
え、あのキングが泣き始めてしまった。
「キングだけじゃない。 俺を慕ってくれて傍に居てくれる者は種族問わず家族みたいな感じさ。 貴族としては失格かもしれないけど」
「先輩? 貴族失敗だなんて言っちゃいけないですよ? 上に立つ、尊敬される、愛されるなんて簡単な事じゃないんですよ? 前世でもそうでしたけど、先輩は無理をして愛されようとしています。 たまには弱くったって誰も文句は言いませんよ。 言ったやつが居たら私が天罰を落とします」
「おい、ナールム…。 ちゃんと分かってるさ。 そこまで鈍感じゃないぞ?」
ふーん? と言い背を向けるナールム。 一体何なんだ。
と言うよりいつの間に居たのか。
「先輩は、自己評価が少し低いですねぇ。 もうここは先輩無しじゃ辛くて泣きたくなるくらい、先輩を必要としてるんですよ。 すなわち貴方の居場所なんです」
「居場所…か」
「月影一心流の方々の様に先輩に嫉妬し、排除しようとする者なんていないんですよ。 自分の嫌な思い出を無理に封印しようとするのではなく。 ちゃんと前を見るのですよ」
「生意気な後輩だな…」
「今更ですか?」
「ほっほ。 ナールム様の言う通りでございますな。 ここは過去の世界ではないのです。 歩みを進めるだけでございますぞ」
「それはそうだね。 全く…二人には頭が上がんないよ」
ナールムと、キングは扉に目を向ける。
「私達以外にも居ると思いますけど…ね?」
と言いながら扉を開けるとそこには屋敷の皆が立っていた。
「おや、これはこれは皆様お揃いで…ん? 旦那様…王宮から書状が届いておりますぞ」
昨日の今日で届くものなのだろうか。
そして、俺は中身を見て慌てて支度をする事になる。